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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第六章 「ハラが減っては戦にならぬ、ハラが膨れりゃ戦はできぬ」

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第四十七話 こ、この世にこんな食べ物が…

「ほう……これが、その、あくまのじゃんくふーど……」


目の前に並べられた、未知なる茶色い塊。

臨場感たっぷりに香ばしく揚がった黄金色の細い棒。

不気味に泡立つ漆黒の液体を、ゼフェルがごくりと喉を鳴らして凝視した。

数日間に及ぶ、大人の総力戦の成果がここにある。


八起は作業着の袖をまくり上げ、調理場の作業台にずらりと並んだ

試作品を見渡した。


「ああ、そうだ。俺の元いた世界の文明が磨き上げた、

人間を怠惰の底へ叩き落とす最凶のセットメニューだ」


不敵に笑ってみせると、隣に立つルナリアが、

信じられないものを見るような目で八起を睨んできた。


「ちょっとおじさん、本当に大丈夫なの?

そんな怪しげな薬草の汁と、お肉をパンで挟んだだけのものが、

あの凶悪な勇者を無力化するなんて、とても思えないんだけど!」


「ふっ、ルナリア。お前はまだ、ジャンクの恐ろしさを知らない。

これはな、脳の報酬系を直接ぶん殴る悪魔の兵器なんだよ。

それに、これはただの兵器じゃない。子供たちの未来でもある」


八起は調理場に集まった、十代半ばの子供たちを振り返った。

孤児の年長者であり、これから自立していく者たちだ。

宿場町に建てる異世界初のファストフード店。


その現場の切り盛りは、基本的にこの年長者たちに任せる。

魔法が使えなくとも、特殊なスキルを持っていなくても、

手順さえ覚えれば、確実に現金を稼いで生きていける仕事。

八起が世界に用意してやれる、生活のための基盤だった。


「よし、お前ら。まずは焼きの工程だ。

アイアン・ロースターの火力を絶対に落とすなよ」


「はい、八起さん!」


子供たちのリーダー格の少年が、真剣な目で肉を並べる。

じゅうううっ、と、強烈に食欲をそそる音が響いた。


今回、八起たちが用意したのは四つの神器だ。


一つ目は、大森林の奥からシオリとガウラが命懸けで

生捕りにしてきた『白大角鹿(ホワイト・エルク)』の濃厚な乳。

それをふんだんに使い、乾燥フルーツの天然酵母で

じっくりと発酵させて焼き上げた、特製のふわふわバンズ。


そこに、先日開発したばかりの、あの醤油ベースの甘辛い

『照り焼きソース』をたっぷりと絡めた肉厚のハンバーグを挟む。

さらに、シャキシャキとした食感を残した丸いネギ(玉ねぎ)と

自家製の濃厚なマヨネーズをこれでもかと乗せた。

これぞ、地球の味を異世界で完全再現した『照り焼きバーガー』だ。


そして二つ目は、シオリに教わった通りに子供たちが丁寧に切り分け、

魔改造圧搾機で搾った純正黄金油でカラリと揚げた『フライドポテト』。

魔王国の主食となった『(キョ)ジャガ』の芽の毒を完全に除去し、

外はサクサク、中はホクホクに仕上げ、極上の塩を振った最高の名脇役だ。


そして三つ目と四つ目は、北の火山地帯から

命懸けで運んできた天然の炭酸水『鳴地湧水(めいちゆうすい)』。

炭酸ガスが抜けないよう、空間固定の術式を施した

「専用の魔術樽」で厳重に密閉し、冷え冷えのまま持ち帰った。


これに、ガルードが商会のネットワークを駆使して

買い占めてきた薬草の根や、生姜に似た根菜、複数の果実を、

錬金小釜で超高速熟成・調合した特製シロップを合わせる。

こうして完成したのが、シュワシュワと妖しく泡立つ漆黒のコーラ。

そして、美しい琥珀色に輝くジンジャーエールである。


「よし、ソースの塗り方も完璧だな。次は樽からの注ぎ方だ」


子供たちが真剣な表情で、魔術樽の蛇口をひねる。

シュワァッと冷たい泡が立ち上り、コップが満たされていく。


「八起殿、すでに城下町の商人たち、

およびガルム将軍が食堂に到着しております」


ゼフェルが、緊張した面持ちで報告に来た。

今日の試食会は、身内だけで楽しむためのものじゃない。

ガルードの呼びかけで集まった、城下町の有力な商人たち。


彼らにはこの味を叩き込み、各地への宣伝活動を担ってもらう。

口コミこそが、勇者一行を宿場町へ誘い出す最大の罠になる。

そして、もう一人。脳筋の人狼族、ガルム将軍。


今回の作戦は、正面切った戦争ではない。

だが、勇者が集まる店には当然、不測の事態が予想される。

子供たちの安全を守るため、軍属の中でも

特に隠密行動に長けた精鋭を、冒険者に偽装させて店に配置する。

護衛任務の全権を、ガルムに依頼するための場でもあった。


「よし、盛り付けは任せたぞ。食堂へ運ぶんだ」


「はいっ!」


手押し台車に大量のバーガーセットを載せ、子供たちが進む。

魔王城の大食堂の扉を開けると、そこには、

何が始まるのかとざわつく商人たちと、腕を組んだガルムがいた。


「待たせたな。これが出陣の兵糧だ」


八起の合図で、子供たちがテキパキと席へ料理を配っていく。

机の上に並んだ、未知なる茶色い塊。

カラリと揚がった、塩の粒が輝くフライドポテト。

そして、不気味に泡立つ漆黒の液体。

商人たちは一瞬、不気味なものを見るように表情を強張らせた。


「八起殿、これは……いったい何という料理で?」


一人の商人が恐る恐る尋ねる。八起は不敵に笑ってみせた。


「能書きはいい。全員、遠慮せずにかぶりついてくれ。

ただし、これには正しい『作法』ってやつがある」


八起は、一同を見回しながら人差し指を立てた。


「まず、この『照り焼きバーガー』を両手でしっかりと持つ。

ソースが垂れるのを恐れず、大きく口を開けて一気にかじりつく。

口の中が肉汁とソースでいっぱいになったら、

この塩気の効いたポテトを、すかさず二、三本口へ放り込むんだ。

そして、その濃厚な旨味が最高潮に達したところで――」


キンキンに冷えた黒い液体が入ったコップを指差した。


「この炭酸飲料を、喉を鳴らしながら一気に流し込む。いいな?」


商人たちは互いに顔を見合わせ、意を決したようにバーガーを持った。

ガルム将軍も、太い指で不器用そうにそれを掴む。


ガブリ。


「――ッ!?!?!??」


次の瞬間、食堂の空気が完全に凍りついた。

商人たちの目がこれ以上ないほど見開かれ、身体が硬直する。

ガルム将軍にいたっては、狼の耳があり得ない角度で跳ね上がった。


「な、ななな……何だこれはぁぁぁーーーっ!!」


一人の商人が、椅子を蹴立てて立ち上がった。

口の周りを照り焼きソースとマヨネーズで汚しながら叫ぶ。


「パンが、信じられないほどふわふわだ!

そこに絡むこの黒いソース……甘くて、しょっぱくて、

肉の旨味を何倍にも引き立てている! こんな美味いものが、

この世界に存在するわけがないっ!!」


「おい、作法を忘れるな。ポテトを食って、そいつを流し込め!」


八起の鋭い指示に、全員が夢中でポテトを口へ詰め込んだ。

サクッ、ホクッ、と、揚がったフライドポテトが塩気と共に

劇的なコクを足し、そのまま冷え冷えの液体で一気に喉へ流し込んだ。


グビ、グビ、グビ……プハァッ!!!


激しい吐息が、食堂のあちこちから漏れ出る。


「ひゃあぁぁっ!? 口の中がパチパチする!」


「喉が、喉が痛いのに、冷たくて、すっきりして……」


「お肉とポテトの油っぽさが、一瞬で綺麗に消え去ったぞ!」


「……くそっ、すぐに次の一口が食べたくなってしまう!」


商人たちは完全に理性を失い、飢えた獣のように

二口目のバーガーへと猛烈にかぶりつき始めた。


「……信じられないな」


ガルム将軍が、震える手でジンジャーエールのコップを見つめていた。


「この肉と、フライドポテトと、炭酸水の組み合わせ……劇物だな。

濃厚な脂と塩気を、この黄金の液体が完璧に洗い流し、

次の『一口』への渇望を、無限に生み出していく……。

八起殿、これは美味いという次元を超えている。恐ろしい兵器だ」


「ああ。これに抗える人間は、地球にもそうそういなかった」


八起は満足げに頷いた。

脳の報酬系を直接ぶん殴る、油・糖分・塩分の三位一体攻撃。

いかに強靭な肉体を持つ勇者であろうとも、この悪魔の味には勝てない。


ガルムはバーガーとポテトを綺麗に平らげると、真剣な目で俺を見た。


「八起殿、この料理を作る子供たちを狙う者がいれば、

我が軍の精鋭を以て、影から跡形もなく排除してみせよう。

彼らは魔王国の宝だ。誰一人として傷つけさせはせん」


「頼む、ガルム。店の手伝いとして、隠密の精鋭を馴染ませてくれ」


「承知した」


力強い言葉に、俺は深く頷いた。これで護衛の懸念も消えた。

視線を商人たちへ移すと、彼らは皆、

恍惚とした表情でコーラを飲み干しているところだった。


「商人のお前たち、役目は分かっているな?」


八起の問いかけに、ガルードが代表して不敵に微笑んだ。


「ええ、八起殿。この『照り焼きバーガーセット』の噂を、

人間の国々の冒険者ギルドや宿場町へ、爆発的に広めてみせます。

『一度食べたら、死ぬまで忘れられない悪魔のジャンクフード』。

その噂を聞けば、勇者どもは必ず宿場町へと足を運ぶでしょう」


「よし……!」


八起は調理場でテキパキと片付けをする子供たちを見つめ、

それから、遠く人間の国へと続く街道の先を睨みつけた。


待ってろよ、勇者一行。

剣や魔法で戦うなんて、時代遅れの野蛮な真似はしない。

俺たちの作った、この美味すぎる「悪魔のジャンクフード」で、

お前たちの胃袋と理性を、跡形もなく骨抜きにしてやる。


「さぁ、出陣だ」


50歳の何でも屋が仕掛ける、異世界初の食糧テロ。

その幕が、いま盛大に上がろうとしていた。

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