第三十九話 発進っ!!ギガント改
「グオォォォォォォンッ!!」
操られた巨大なドラゴンの咆哮が、荒野の畑の土を激しく巻き上げる。
(うはぁ……やっぱり、本物のドラゴンは近くで見ると、
めちゃくちゃおっかねぇなぁ……っ!)
上空を見上げる八起の背中に、冷たい汗がどっと吹き出した。
旅の行程の四日目に、空を飛ぶ姿を目撃した時以上の
生きた心地のしない畏怖が、おじさんの心を支配する。
「陛下! ここは危険です! 安全なところへお隠れください!」
緊迫のあまり、ゼフェルが思わず「陛下」と口を滑らせた。
だが、今はそんな失言に突っ込んでいる場合ではない。
「馬鹿言え! 大事な仲間を置いて、俺一人だけが逃げ出せるかってんだ!」
現場主義の職人としての肝の据わり方が、恐怖を気合でねじ伏せる。
と、その瞬間。八起の脳裏に、ずっと忘れていた『ある大事なこと』が
電撃のように蘇ってきた。
(そうだ……俺、一回目の巨ジャガの植え付けが終わった頃、
趣味を全開にしてあのトラクターを超魔改造してたわ……!)
何でも屋としての職人魂、そして日本の男としての夢を詰め込んだ記憶。
それが、今の危機的状況と頭の中でガチリと繋がった。
八起は、自らの規格外の魔力を解放し、格納庫の奥にある愛機へと
全神経を集中させる。
(届けっ! 動けぇぇっ!)
心の中で激しく叫んだ。
「発進っ!! ギガント改!!」
その瞬間、魔王城の格納庫の天井を突き破り、
充填された魔力を爆発させて飛び出してきた影があった。
それこそが、八起が思いのままに変形機構を盛り込み、
浮行キャタピラを強引に変形させて二足歩行を可能にした、ロマンの塊。
さらにおまけとして、流す魔力次第で強力な浮力と吸着力を発生させる
元床板の特性をキャタピラに極限まで高めていた。
操作する者の魔力を全開放すれば、少しの間だけ完全な『飛行』すら
可能にする、大ロマン改造であった。
魔王城から上空を高速で飛来したギガント改は、
地上で身構えるガルムやガウラたちの殺気に気を取られていた
ドラゴンの、ちょうど真上へと到達する。
「な、何だ、あの塊は……っ!?」
頭上の異変に気づいた大臣バジールが、驚愕の声を上げた時には、
すでに遅かった。
ゴオォォォォッ!!!
凄まじい質量と、上空からの加速。
そしてキャタピラの吸着特性を下向きの推進力に変えたギガント改が、
ドラゴンの背中に急降下、激突したのだ。
ドカァァァァンッ!!!
荒野に凄まじい衝撃波が走り、爆煙が立ち込める。
ギガント改の猛烈な踏み付けは、地面に叩きつけられたドラゴンの
硬い首を一撃で、へし折っていた。
「が、はっ……!?」
ドラゴンの頭上にいたバジール大臣は、地面に激突した凄まじい衝撃に
耐えきれず、そのまま白目を剥いてドサリと崩れ落ちる。
これだけの衝撃を受けても五体満足で気絶だけで済むとは、
とんでもなく頑丈な爺さんだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
最強の竜族と、それを操る黒幕の襲来という、国を揺るがす大危機。
それが、空から降ってきた謎の二足歩行重機によって、
一瞬で完全鎮圧されてしまったのだ。
「「「「「…………」」」」」
立ち込める土煙の中、剣を構え、魔法の詠唱を始め、牙を剥き出しに
していた五人――ゼフェル、ルナリア、シオリ、ガウラ、そして
ガルム将軍は、臨戦態勢の姿勢のまま、完全に硬直していた。
あまりの奇々怪々な光景に、全員の思考が完全にフリーズしていた。




