第二十七話 いざ、|出陣《お仕事》!
フライドポテトパーティーが終わり、魔王城の朝は
活気に満ちていた。
城下町には少しずつだが、人々の笑い声が
戻り始めている。マヨネーズビジネスの予兆が、
確実に領民へと希望を与えていた。
だがしかし、八起は、玉座の間で
腕を組み、冷徹な現実と向き合っていた。
「魔王国内の市場だけでは、これ以上の
急激な回復には限度があるな……」
何でも屋の経営者としての勘が、これ以上の
内需拡大は時間がかかると告げていた。
しかも、期限は迫っている。
かつて軍部のガルム将軍たちと交わした、
魔王国の財政立て直しの猶予は残り半年を
切っているのだ。
「待っていても活気は急激には戻らない。
なら、やることは一つ。打って出る!」
八起の宣言に、その場にいた側近たちの空気が
ピリリと引き締まった。
「ゼフェル、段取りを頼めるか?
隣国の国境の町に、フライドポテトの露店を出す。
そこで外貨を稼ぐぞ」
「お待ちください、八起殿!」
誰もが見惚れる軍師ゼフェルが、
血相を変えて俺を呼び止めた。
その表情は真剣だ。
「……どうした、ゼフェル?」
「隣国の国境の町へ赴くなど、あまりに危険です!
城壁の外には、凶暴な魔獣や魔物がうごめいています!」
「へ?」
八起は、思わず間が抜けた声を漏らした。
「城壁の外って……あの、ギガントで耕した、
畑のある荒野のことじゃないのか?」
「違います! あそこは城の内郭です!
さらにその遥か外側に、外敵や野生の狂暴な魔物の
侵入を防ぐ、巨大な大城壁が存在するのです!」
ゼフェルの言葉に、俺は冷や汗が背中を伝うのを
感じた。
「おじさん、まさか知らなかったの!?」
秘書官のルナリアが呆れたように声を上げる。
昨日贈った超高級美容液のおかげで、
お肌がキラキラと輝いていた。
「いや、知らなかった……。だが、危険だからと
引き下がるわけにはいかん。ゼフェル、
国境警備兵との交渉や商人の通行証の手配は
頼めるか?」
「はっ! 八起殿の御命令とあれば、ただちに
大城壁の門番へ伝令を送り、万全の段取りを
整えます!」
ゼフェルは、深く一礼した。やはり有能な男だ。
「よし。俺は現地でポテトを揚げる調理設備が
付いた移動式の屋台を作る。ルナリア、
お前には留守中の城を頼みたい。ちょうど二度目の
巨ジャガの収穫時期だろ?
子供たちと一緒に収穫を進めてほしい。
それと、大豆の栽培も継続だ」
「大豆ですか? もう次の作付けを?」
「ああ。この魔王国の気候は、年間を通して
春のように穏やかだからな。二毛作どころか、
年中栽培ができる。大豆と黄金油の量産体制を
整えてくれ」
「……分かりました。おじさんがそこまで言うなら、
お留守番をこなしてみせます。でも、絶対に
無茶はしないでね」
ルナリアは少し頬を赤らめ、いじらしそうに頷いた。
完全に恋する乙女の顔だ。
ツンとした態度の裏に激しい嫉妬と寂しさを
隠している。
「あ、それとな、ルナリア。今回の遠征には、
マヨネーズは持ち出さない。あの秘伝のソースは、
魔王国の城下町内限定の販売とする」
「えっ? なんで? あんなに美味しいのに、
他国へ売ればもっと大儲けできるんじゃないの?」
「ガラス瓶の工房も建設中だし、希少価値を守る
ためだ。国境ではフライドポテト自体の
ポテンシャルと、シンプルな塩味のみで
外貨を毟り取る」
そんな二人のやり取りを、部屋の隅で控えていた
使用人のシオリが、凄まじい熱量で見つめていた。
(あああ……! 国境へ赴くおじ様と、城で健気に
帰りを待つルナリア様! 『俺を信じて待っていてくれ』
『はい、あなた……!』 これよ! この王道年の差
ラブコメが最高に尊いわぁ……!)
シオリの脳内で妄想が大暴走しているが、
俺はいつものようにスルーを決め込む。
無自覚な最強魔力を持つ男の、初めての
「城壁の外」への挑戦が、いま始まろうとしていた。
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