第百六十八話 どうする?どうする?どうする?
「ハァァハァァハァァ……。玉座に……何をした……」
玉座に囚われ、魔力をごっそりと吸い取られ、
ヘロヘロになった男が、恨みがましい目で俺を睨みつける。
そして途切れ途切れに声を絞り出した。
「ああ、逃げようとするのは想定済みだからな。
少しイジらせてもらったよ。
全て話すか干物になるか選んでいいぞ」
可能な限りの悪役顔で微笑んでみる。
傍で剣に手をかけているコウタロウとセシリアの顔は、
俺の演技で完全に引きつっていた。
「何を話せというのだ。俺は聖王だ、何も知らん!」
「おいおい、さっきまで偉大な魔王と言ってなかったか?
いつから聖王になった」
「……」
「また、だんまりか?
俺をここに寄こしたのはあんたなんだろ?」
「……」
男は再び不快そうに口を閉ざす。
俺は躊躇うことなく、メルへ視線を向けた。
「全開で頼む」
「待て待て待てっ!転移させたのは俺だ!
これでいいだろっ!!」
あのおぞましい感覚に男は音を上げる。
「いや、よくない。
真相がまったくわからん。
俺なんか転移させて何がしたかった?」
「……」
「メル」
「ちょっと待て、お前ふざけるな!
何ですぐに、あんなおぞましい事させようとする!!」
「「「「「……」」」」」
俺たち全員がその言葉を聞いて、あっけにとられた。
「あんたこそなんだ、散々他人に好き放題して、
自分が何かされると逆ギレか?
ここにいる全員があんたの被害者だぞ!」
「……魔王だぞ……俺は魔王だぞっ!!
魔王の俺が好き勝手して何が悪いっ!!
この世界に来てからいいように使われて、
魔王を倒したらお払い箱。
元居た世界に返せってんだ!――」
長い――。
男が吐き出した恨み言の数々は、
要約すると気が遠くなるほど長かった。
驚いたことに、
この男は本物の『元魔王』だった。
どうやら、俺やコウタロウと違い、
他の世界から転生してきたらしい。
前世は非科学的な事象の研究者だったようだ。
かつて異世界から転生してきた男は、
勇者として成長し先々代魔王を討伐したものの、
その性格からかお払い箱になり、
世界の端へと放逐されて今に至るということだ。
魔王城で偶然手に入れた古い魔道書から、
長い年月をかけて執念で精神魔法と召喚魔法を完成させたのだとか。
ちなみに、ゼフェルは先々代魔王の直系子孫ということだった。
前魔王の息子じゃなかった、
良かったなゼフェル。
そして一番恐ろしいのは、
この男の持つ固有の特殊能力が、
物体を介した『憑依』だった事だ。
俺と世界が入れ替わった人物は、
この元魔王であり、
聖法国王が勇者召喚を行った際に仕掛けた罠で、
さらに入れ替わったとの事だった。
しでかした事の重大さやこれまでの被害を考えれば、
当然死罪は免れない。
だが、男の持つ精神汚染や憑依能力の底が知れない為、
下手に処刑して魂を放てば何が起きるか分からない。
そのため、『封印の柩』での永久封印が妥当と判断された。
だがしかし、
数々の不具合やトラブルの現場を見てきた俺は、
『絶対』という言葉を信用しない。
どれほど強固な封印だろうと、
長い年月が経てば劣化し、
いつかまた同じことが起こり得るからだ。
そこで俺は、一つの提案を考え出した。
「宇宙に捨ててこようと思う」
この世界の住人は、
空の更に上にある宇宙という存在を全く知らなかった。
そのため、この奇想天外な提案に、
両手で賛成したのがルナリアとコウタロウだった。
二人は宇宙のヤバさを熟知しているため、
宇宙という空間こそが、
唯一の『絶対』的な封印世界という事を理解している。
だからこそ、
他国の重鎮たちを率先して説得し、
宇宙投棄案を承諾させたのだ。
どうやって宇宙に行くかって?
もちろん、ギガント改の出番である。
「メル、俺の説明は全て理解したか?」
「ん」
「宇宙ってのはものすごい高い所にある。
今の重量じゃ多分とどかない。
装甲全て外して、ギガント用にアーマースーツ作るんだ」
重量を極限まで軽量化しつつ、
宇宙空間の変化に耐えるだけの強度が求められる。
結局、元魔王から魔力を限界まで吸い取り、
さらに俺からも……。
メルとシオリ、
そしてノエルに全面的に協力してもらい、
ギガント用アーマースーツの製作を始めた。
俺は装甲を外して骨組みだけになったギガントに、
追加のアイアンウッドを施工して推進力の増強を図った。
さらに、有人初飛行した時の教訓も忘れずに、
気密キャノピーも制作した。
呼吸はどうするかって?
それはこの世界のチート能力、
ゼフェルに水中でも呼吸できる付与魔法を、
気密キャノピーに施してもらった。
実に便利な世界だ。
こうして俺たちは、
壮大な「宇宙へのゴミ出し」という仕事へ、
旅立つ準備を進めるのだった。




