第百六十七話 魔王を名乗る男
俺は魔王を名乗る男の身包みを剥ぎとると、
シオリに厳重な拘束を頼んだ。
しばらくすると、不快な魔力の消失に気づいた皆が、
玉座の間に集まりだした。
「八起殿!ご無事ですか!?」
「おじさん!大丈夫なの!?」
「おふ、だいじょふら……。はなひすらいら……」
「「「「っ!!」」」」
俺が返事と共に振り返ると、
全員が言葉をなくした。
シオリはどこからか鏡を持ち出すと、
俺の前に差し出した。
「っ!!」
付与のお陰か痛みがほとんどなかったので気にならなかったが、
大人の拳だ。
ダメージはしっかりあったらしい。
顔がボコボコに腫れてきた。
「おじさんっ!!無茶はしない様にって前に言ったよね!!
そんな顔になるまで何したの!!」
俺は言えなかった。
挑発して殴らせたとは……。
ノエルが駆け付け、
慌てて治癒魔法を施してくれた。
腫れが引いて話しやすくなると、
真っ先にゼフェルへ確認した。
「コレットさんたちは無事か?」
「問題ありません。
三陛下には、将軍とガウラを護衛に付けてあります」
ゼフェルは速やかにあらゆる手を回し、
安全を確保したようだ。
魔王国で他国の王族に何かあれば、
ただの問題では済まない。
「今、コウタロウとメルにも連絡したからすぐに来るわ」
(これで、関係者全員が揃うな)
「……八起殿、玉座を少し調べていただけないでしょうか?」
ゼフェルは何かを思い付いたらしい。
俺はグローブを外して玉座を触る。
『転移の印』と脳裏に浮かんだ。
「これ『転移の印』になっているらしい。
俺にはこれしかわからないが、
メルなら詳しくわかるはず」
「やはり、その様な物がありましたか。
引っかかっていたのです。
八起殿の召喚と、誰にも気づかれずに玉座へ現れたその男に」
たしかに、ゼフェルの言う通り、
誰にも気づかれず玉座に来られるなど警備上ありえない。
しかも、俺の召喚にも関与があるとは……。
少ししてメルが先に到着した。
「メル殿、到着早々で申し訳ないのですがお願いがあります。
玉座をよく調べていただけないでしょうか?」
不思議そうに、
メルは玉座を調べだした。
「転移のしるし?……ん……座標?
……どこかと……繋げて……移動できる……」
「術式だけ壊せますか?」
メルは少し考えると、
腰袋から黒い棒を取り出した。
「……ん……じゃぁん……師匠の棒!」
メルが自慢げに掲げたのは、
俺が普段、肩たたき棒と呼んでいる棒だった。
「見当たらないからどこにやったかと思ってたよ」
「これで……消せる……」
「頼めるか?」
「……んっ!……師匠っ……耳貸す……」
メルは何か思いついたのか、
小声で俺に提案してきた。
「……ああ、やってくれ!思いっきりな」
周りのみんなを置き去りにして、
メルは張り切って作業を始めた。
二回りほど大きくなったボックンが、
何かのケーブルを引いてくる。
「ボックンに新しい体を作ったのか!?強そうだな……」
「八起殿、メル殿はいったい何を始めたのでしょうか?」
「ああ、玉座好きの奴に嫌がらせを思いついた。メルが」
ほどなくメルは作業を終わらせた。
作業が終わる頃に、
コウタロウも玉座の間に到着した。
まずは、勇者パーティーに、
この男の顔を確認してもらった。
コウタロウは複雑な表情をした後に口を開いた。
「聖法国王です……」
セシリア、メル、ノエルの3人も、
それぞれが聖法国王と答えた。
続けて、ゼフェル、ルナリア、シオリに確認する。
「わかりません、知らない男です」
「知らないわ」
「知らないですよぉ」
「話を合わせると本物の聖法国王か……。
これはやはり、本人に聞くしかねぇなぁ」
俺はノエルに目が覚める程度の回復を頼んだ。
「ぐ、ぐほっ、ふ、ふざけんじゃねぇぞぉ、殴られたくらいで……」
男は縛られ身動きが取れないことに気づくと、
歪めた顔で俺を睨みつけた。
「あんたはもう何もできない。
これから質問をするが全て答えてもらおうか」
「……」
「だんまりはいいが、この城の事よく知っているよな?
あの拷問道具、すごいよなぁ。あれはあんたの趣味か?
まさか、自分に使うためのものじゃないよな?」
男の歪めた顔が、
今度はべつの意味で歪み始めた。
「くっ、わかったよ。答えてやるから俺を玉座に座らせろ。
そうすれば、答えてやらんこともない」
俺は見逃さなかった。
一瞬、口元が緩んだことを。
「コウタロウ、セシリア、複雑だろうがすまない。
そいつを玉座に座らせてくれ」
二人にとっては因縁の相手だ。
申し訳ないと思いながらもお願いした。
男は玉座に座ると、
薄気味悪い笑顔へと表情を変える。
「くくっ、ふわはっはっはっ。
愚かな奴らだ、これで終わったと思うなよ!」
男は高笑いとともに、
魔力を収束させた。
その時だった――。
「ふひゃぁぁぁ、おふっおふっひゃぎゃぁぁぁぁぁ」
俺はニヤリと笑うと、
同情の言葉を送った。
「どうかな、強制的に魔力を吸われる感想は?」
周囲にいる面々は、
あまりの絵ヅラにドン引きしていた。
この吸引力のヤバさは、
体験者にしかわからない。
転移の扉どころの話ではない。
別の自分への扉が開くかも知れない恐ろしい体験なのだ。
俺は背筋に最強の悪寒を走らせながら、
男の尋問を続けるのであった。




