第百六十四話 開通式典
意識が戻ってから一週間が過ぎ、足元はまだおぼつかないものの、
ようやく自分の足で立ち上がれるようになった。
職人たちが車椅子のような物を作ってくれたおかげで、
自力で移動することができるようになったのは大変ありがたい。
場内を移動しているとゼフェルが通りかかった。
「おはようございます八起殿。準備は順調に進んでおります。
いよいよ八起殿の深遠なる布石であった、
国家間大量輸送幹線の運行が現実になりますね。
その深謀遠慮の真髄を間近で拝見できますこと、
誠に光栄に存じます」
「あ、ああ……。感激してる所、
申し訳ないのだが実は非常に聞きづらい問題があってだな……」
すると、ゼフェルは一瞬で俺の意図を察したように、
キリリと顔を引き締めた。
「――!ご安心を。
八起殿の名誉は不肖ゼフェルが半年の間、完璧にお守りいたしました」
爽やかな笑顔で胸を張るゼフェル。
その有能ぶりに、俺は感謝しかなかった。
……しかなかったのだが、その完璧な笑顔を見た瞬間、
ふと、背筋に悪寒がこみ上げてきた。
(シオリが悶えている生々しい絵を想像してしまった……。
俺、消えてしまいたい……)
確定した開通式の日程に向けて、俺は必死に歩行訓練をこなしていった。
寝たきりで使われなかった筋肉に生気を流すかのように慣らしていく。
数日もすると、アーマースーツを着込むことで、
日常生活には支障がなくなった。
――そして、迎えた開通式当日。
城下町に新設されたプラットホームでは、
四カ国間の一大イベントとして
大勢の人々の熱気は最高潮に達していた。
俺は演壇の階段を上り、マイクの前に立つと、
集まった人々を見渡して、式典の祝いの言葉を告げる。
「本日は大勢の方にお集まりいただき、心から感謝いたします。
今日この日に立ち会えたことに、深い感慨を覚えています」
俺は件の事もあり、みんなの前で自分の声を届けられる喜びが、
誰よりも深く心に染み渡っていた。
「新造された先頭車両は
キャベッツァ農国とビエール国の職人と
我が国の職人の力を合わせた合作です。
走行中の安全対策として前部には障害物を跳ね除ける盾、
側面には魔法障壁発生器が設置されており、
シーバルト王国とビエール国間を約四日でつなぎます――」
新しい物流と車両のあらましを説明し終えると、
会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。
俺の後には、臨席していた三カ国の代表それぞれが、
国境を越えた歴史的な幕開けに熱い祝辞を述べた。
続いて、実際の初運行について、アナウンスがルナリアによって行われた。
「今回は寝台付き客車十五台、貨物車五台でシーバルト王国へ向かい、
折り返し後はビエール国へと向かいます。
記念乗車券にはそれぞれの降車国が記載されていますので、
お間違いないようにしてください。
それでは番号の付いた車両にご移動お願いします。
まもなく発車いたします」
今回の初運行記念の乗車券は、
抽選での事前販売となっていた。
幸運にもチケットを勝ち取った購入者たちは、
眼前に鎮座する未知の巨大な魔導列車に対し、
それぞれが期待と興奮に満ちた表情を浮かべながら、
軽い足どりで車両へと乗り込んでいく。
ざわざわとした人混みが落ち着きを見せ、
準備が完全に整ったその時、
出発を告げるベルの音が、
どこまでも美しく鳴り響いた。




