第百六十話 災いを転じて福となす
「皆さん、おはようございます。今日から突貫ですが復旧工事を始めます。
作業の流れは――」
翌朝、俺は宿場町から集まってくれた大勢の作業員たちを前に、
一通りの説明を終える。
誰もが真剣な現場の目をして、俺が話す手順に耳を傾けていた。
「八起殿、その何とも言えぬ棒は何ですかな?」
作業の段取りを確認していたガルードが、
俺の愛用している肩叩き棒を指さして尋ねてきた。
いつもは肩叩き用として重宝している、便利アイテムだ。
「これは秘密兵器です。俺の魔力で土を固めることができます。
こんな感じに」
俺は掘り始めたばかりの水路用の溝へと足を進めると、
その場に屈み込み、溝の底に『棒』を直接押し当て魔力を注ぎ転がした。
「こうやって変質化させられるんですよ。結構な魔力を使いますがね」
棒の持つ歪みの効力により、触れた箇所の地面が俺のイメージ通りに、
一瞬にして石のように硬質化していく。
その滑らかに変化した水路の底を見て、
ガルードや近くにいた作業員たちは一様に驚いていた。
「こうやって町まで水抜き用の水路を作ります。
温泉水は金属や地盤を脆くする性質があるので、この作り方が適しています。
俺しかできないのが歯がゆいですが」
俺は引き攣りながら笑ってみせた。
ひたすら集中力を維持し、
崩落部から町までの長い水路を固め終わると、
俺は魔力切れでその場へへたりこんだ。
「はぁ……なんとか一日で基礎はできたな。
テオもご苦労さん、ギガントの扱いが上手くなっていて驚いたよ」
「そうですか!毎日畑を耕してましたから、そのおかげです」
テオが袖で額の汗を拭いながら、嬉しそうに胸を張る。
「よくやった。じゃあ、明日の段取りを説明するぞ。
今日作った水路は、これから温かいお湯が流れる。
熱をできるだけ逃がさないように、
上から石の蓋をして土で埋め戻す必要がある。
これを明日、テオに任せる。
ギガントで周囲の地面を耕して、
アタッチメントの反転作用で固めた所を蓋に使って、
そのまま埋め戻してくれればいい」
「はい!任せてください、八起さん!」
テオの頼もしい返事を聞きながら、
こうして一日目は無事に終わった。
翌朝、魔力の戻った俺は、
町の中にお湯を溜めるための大きな水槽部分の製作を始めた。
ここを基点にして、これから建てる浴槽にお湯を分配する仕組みだ。
地球にあるような圧送ポンプなどあれば話は早いが、
この世界にそんな便利なものは存在しない。
昔ながらの高低差による傾斜を利用して、各浴槽にお湯を配るのだ。
俺は立地の打ち合わせのために商人ギルドに向かった。
「どの辺りに施設を建てるか決まりましたか?」
「ああ、八起さん、お待ちしておりました。
町の中央の広場に建てようと思います。
それで、施設の外観や間取りはこんな感じでよろしいですか?」
宿場町の代表が提示してきた設計図面は、
思った以上の出来栄えだった。
さすがは現役の商人たちだ、
客を呼び込むための動線が実によく考えられている。
「いいですね、これなら文句なしだ。
では、貯水槽から敷地へ温泉を流せるように作っておきます」
俺はすぐに現場に戻ると、一気に石造りの水槽を完成させた。
テオのほうも順調なようだ。
作業員たちにテキパキと指示を出しながら、
水路の埋め戻しをすぐ手前まで完成させている。
昼食後、関係者全員を集めて、俺は順調な進捗の報告をした。
「あとは、湧き出る温泉をこの水路に回せば、
坑道の崩落部分の本格的な補強工事が始められます。
そこまで終われば、今回の全ての工事は無事に終了です」
思わぬ災害事故の発生で、
一時は町中が騒然とした空気に包まれた。
逆にこれからは「温泉の湧く新しい宿場町」
としての賑わいに変わるだろう。
不幸な事故だけで終わらずに本当に良かった。
現場を共にしたこの場にいる全員が、
心からそう思うのであった。




