第百五十八話 ここ掘れ、わんわん!
俺たちは急いで商人ギルドに向かった。
中に入ると、疲労と土にまみれた人々が集まり、
明日の作業についての話し合いが行われていた。
張り詰めた空気の中へ、俺は声をかける。
「こんばんは。要請で城より先行してきました、
八起とテオといいます。
すぐに護衛ギルド長も到着しますので詳しく状況を教えてください」
俺とテオが改めて聞いた現場の話では、
中でいくつかに分かれている通路の1つ、
坑道の入口で崩落が起きたという。
その奥は鉱物の採掘場になっており、
事故当時、五名が採掘中だったらしい。
現在の死傷者については不明で、
おまけに時折魔獣が現れるせいで作業がまったく捗らないということだった。
話を聞き終わる頃、ちょうどセシリアとサンが息を切らせて到着した。
「セシリア、お疲れさん。状況はあとで話す。
奥で魔獣が出るらしいので護衛の再編を頼む。
……皆さん、朝には応援が城下から到着します。
あとはこちらで引き受けますので、今は休んでください。
我々は後続が到着次第、すぐに現場に向かいます。
それと、明日、『ワクワクバーガー』で物資の配給をします、
ご希望の方は店舗にお越し下さい」
俺たちはギルドの空きスペースで少しばかりの仮眠をとり、
後続が到着するのを待つことにした。
翌朝、空が白々としてきた頃、
後続の大型トラックが到着した。
驚いたことに、運転席にはガルードが乗っていた。
どうやらメルに教わりながら、
夜通しハンドルを握って運転してきたらしい。
助手席のメルは途中で力尽きたそうだ。
シートで爆睡している弟子に、
俺は心の中で(お疲れさん、メル)と声をかけた。
全体の指揮はゼフェルに任せた。
俺とテオは不必要な装備をギガントから外して、
坑道にも対応できる最小形態で、
ダンジョンの中へ入ることにした。
先頭はセシリアが率いる護衛隊。
魔獣の奇襲を警戒しながら進み、
俺たちギガントと作業員が続けて入っていった。
崩落現場は、幸いにもダンジョンの入口からさほど離れてはいなかった。
想像していたよりは空間の広さもある。
「みんな、見ての通りだ。
万が一の二次崩落に備えて、ギガントが先頭で掘り進む。
他の人は周囲の補強と、削り取った土砂の運び出しをしてくれ。
慎重に頼むぞ」
俺は一旦外に出ると、
本部にいるルナリアに被災者や作業員への配給の段取りをお願いした。
「八起様、少しよろしいですか?」
キャベッツァの職人が話しかけてきた。
「収穫で使っている手押し車を、
魔王国の技術を使って作ってみました。
これ、現場で使えないでしょうか?」
その職人が引いてきたのは、
なんと底面にアイアンウッドの浮力板が組み込まれた手押し車だった。
「いや、使えるよ!これがあれば土砂を運び出す労力が大違いだ!」
俺は早速、その手押し車を引いて中に戻った。
アイアンウッドのおかげで、
大量の土砂を積んでも重量はほとんど感じない。
搬出のピッチが一気に上がる。
どのくらい掘り進んだのだろうか。
繊細な部分はスーツの力で俺が掘り進めた。
未だに負傷者が発見できないのが、不幸中の幸いだ。
生きて奥に閉じ込められている可能性が高い。
さらにしばらく慎重に掘り進めると、
ガバッと目の前の土壁が崩れ、
ようやくその奥に広い空洞が現れた。
「無事かぁ!?返事はできるかぁ!?」
暗闇の奥に向かって、俺は声を張り上げた。
「ああ、ここにいる。全員無事だ……」
奥から力ない声だが、確かな返事が帰ってきた。
「よし、もう少し頑張ってくれ!
また崩落しないように補強しながら掘っているから、
少し時間がかかる。大丈夫か?」
「おおぅ、頼む……」
夜明けから五時間程で救助は完了した。
かなり衰弱はしているが、
全員が無事だった事に心から安堵した。
ダンジョンの外で一息ついていると、
白い毛玉が突進してきた。
以前は力負けしたが、今の俺はアーマースーツを着ている。
(今度は力では負けん!)
そう身構えたが、白い毛玉は俺の手前できちんと止まった。
サンは俺の作業着の袖口をガブッと咥えると、
どこかへ向かって強く引っ張り出した。
「待て待て、わかったからそんなに引っ張るな」
俺がサンについてダンジョンに戻ると、
崩落した場所の一箇所を、
サンが大きな前足でトントンと叩いた。
「ここがどうした、何かあるのか?」
サンがその部分を大きな前足で掘り始めると、
周囲に独特の懐かしい匂いが漂ってきた。
(あれ?これって、硫黄の匂いじゃないか?)
さらに掘り進めると、
掘り起こした跡の岩肌からジワジワと水がにじみ出てきた。
その水に直接手を入れてみる。
温かい……。
(温泉か、これ!?)
どうやら今回の坑道の崩落は、
地下に温泉が湧き出ていたことによって、
周囲の地盤が緩んでしまったのが原因のようだった。
今後の鉱区の運用を考えると、
このまま放置するわけにはいかない。
大規模に掘削を行い、
しっかりとした補強工事をするほうがいいだろう。
だが、今はまず、原因を発見した大金星のサンを思いっきり撫で回し、
褒めることにしたのだった。




