第百五十話 やるしかねぇかなぁ~
城に戻ると、中庭に大きな人だかりが出来ていた。
何事かと人混みを掻き分けて近づいてみると、
コウタロウの運転で順番に軽トラの試乗をしているところだった。
荷台や助手席に乗せて貰った者たちが、
一様に歓声を上げている。
「おかえり、八起殿。コウタロウ君も運転できるんだね。
これって誰でも運転出来るものなのかい?」
人だかりの中から現れたアンバーが、
興味津々といった様子で聞いてきた。
「ええ、操作方法と、
何が危険かさえしっかり覚えてもらえば簡単ですよ。
計画しているガイドウェイ輸送車の運転者も、
各国から広く募集しようと考えています」
「えっ? うちの国民からも募集してくれるって事かい?」
「そうです。国家間での共同運用ですからね。
当然、交代要員も必要になります。
一人での長時間の運転は危険ですから。
ただ、身元の怪しい人だけは勘弁してくださいね」
「わかっているよ。他国内で何かトラブルでも起こされれば、
国家信用の問題になるからね」
アンバーが真面目な顔で頷く。
「そこで、運転者には公務員として運行してもらいます」
「コウムイン?」
聞き慣れない単語に、アンバーが首を傾げた。
「わかりやすく言うと、
国が身分を保証して直接雇用する人材です。
賃金は運行に関わる各国で均等に出し合います」
「もうそこまで具体的に考えているんだね。
でも、各国の通貨がそれぞれ違うのはどうするんだい?」
「それは魔王国の商業ギルドが両替を担います。
その為の調整に、先程商人の元に行ってきました」
「じゃあ、それはお任せするね。
姉さんもその条件なら問題ないはずさ。……ところで……」
アンバーはそう言うと、
急に俺の耳元で声を小声にした。
「八起殿、アタシもあの軽トラが欲しいのだけど、
どうしても作れないのかい?」
「ははは、作れない事はないです。
ただ、どうしても心臓部に、
ドラゴン級の魔核が必要なので難しいんですよ」
「……そればっかりはねぇ。
もし、何かの機会があったらお願いできるかい?」
(ということは、
コレットの分と合わせて二台分の魔核が必要じゃねぇか!!)
俺は心の中で悲鳴を上げつつも、
職人の顔を崩さずに応じる。
「はっはっはっ、機会があればご連絡しますよ」
そんな話をしていると、
コレットが大きく手を振りながらこちらに向かってきた。
「アンバー、話はつきましたよ。急いで出発の準備をしなさい」
「え、もう帰られるんですか?」
「シーバルト王国まで直接行ってきます。
なので、八起殿、軽トラをお借りできるかしら?」
「えっ、今からですか?
俺は別の用事があるので同行できませんよ?」
「大丈夫! コウタロウちゃぁん」
コレットはこれでもかというくらいの黄色い声で、
試乗を終えたばかりのコウタロウを呼んだ。
「お願いがあるんだけどぉ、軽トラを運転してくれるぅ?」
「え? 運転ですか? いいですよ」
「今からシーバルトまで行くから準備してね」
コレットがパチンとウインクをすると、
コウタロウの顔から一瞬で血の気が引いたように見えた。
「コウタロウ、大丈夫か?
断ってもいいぞ、と言えない所が本当に申し訳ないんだが……」
「師匠、大丈夫です。
ノエルにも一緒に行ってくれるように頼みますから……」
笑顔を作ってはいるが、顔は完全に引きつっている。
「すまんな、頼んだぞ」
俺は同行できない代わりに、
辺境伯への一筆を書こうと執務室へと足を向けた。
すると、廊下の向こうからゼフェルが歩み寄ってくる。
「八起殿、こんな事になるのではないかと、
事前に内容を記した親書をしたためておきました」
本当にこの軍師は有能だ。
俺は受け取った親書をコウタロウに手渡した。
(これ……急に他国の女王を迎え入れることになるシーバルトの内政官は、本当に大変だろな……)
あたりまえだが、
普通の馬や徒歩の護衛では軽トラの速度に到底追いつけない。
そのため、ガウラに急遽道中の護衛をお願いすることにした。
ガウラを探しに行くと、
裏庭でワン達と仰向けになって戯れていた。
「ガウラぁ、仕事頼んでいいか?」
「ボス! どうしたんだ、なんかいつもと違うぞ?」
「ああ、悪いんだがシーバルトまでコレット達の護衛をして欲しいんだ」
「えぇー、あの人なんか怖いからヤダ」
「ワン達も一緒に行っていいから頼むよ。
小遣いもやるから、向こうの街で海のうまいもんでも食ってこい」
「わかった! 奮発してくれよ。あいつらと腹いっぱい食ってくるから!」
そう言うとガウラは尻尾をブンブンと振りながら、
白いモフモフ達の下へと走っていった。
中庭に戻ると、
俺とコウタロウは軽トラの連結器にワゴン・キャリアを取り付け、
エントランスの前に車を回した。
少しすると、
旅の準備を整えたコレットとアンバーがワゴンへと乗り込む。
軽トラの運転席にはコウタロウ、助手席にはノエルが収まった。
周囲を固める護衛にはガウラ、
そしてワンを筆頭にした白いモフモフ達が綺麗にそろった。
「事故と、それから聖法国の動きには十分気をつけてな」
俺は動き出した軽トラを見つめ、
全員が無事に戻ってくることを心から願いながら、
静かに見送るのだった。




