第百四十九話 急がば急げ
「八起殿、こういうのはスピードが命です。
至急シーバルト王国と会談を都合つけてくださいな」
概要の発表が終わるや否や、
コレットが会議用の長テーブルに両手を突き、
身を乗り出して言った。
昨日までの酒好きで豪快な姉御の顔は嘘のように消え、
いつもの現場主義の顔に戻っている。
「え、ちょっと待って。 まだ計画の段階だぞ。
ルートの選定もおこなっていないんだ」
「事は早急です。 何度も国から出る暇はありませんよ!
鉄は熱いうちに打てと言うでしょう!」
俺はコレットの物凄い勢いに断りきれず、
ポケットから無線機を取り出すと、
レオンハルト辺境伯に呼び出しをかけた。
「あ、レオンハルトさん、急で申し訳ないんですが、
キャベッツァ農国から来られている女王陛下が、
新事業について臨時の会談を設けたいと仰っておりまして……」
「八起殿、ちょっと貸して下さいますか!」
「お初にお耳にかかります、でいいのかしら?
私はキャベッツァ農国のコレットと申します。
はい、この度は八起殿から新しい輸送方法の計画を聞かされました、
そちらの国と私の国と大輸送路で交易を行いたく思いまして、
いつ頃ならお話出来るかしら」
コレットは俺の無線機を奪い取ると、
そのままレオンハルトと直接の交渉を始めた。
国家間の複雑な手続きや、外交の段取りの話となると、
俺には完全にお手上げだ。
こういう折衝は、ゼフェルに頼むしかなかった。
「ゼフェル、まいど悪いなぁ。
国同士の話になると俺は出番ないから、
続きは頼んでいいか?」
「お任せ下さい!
このゼフェル、命に代えてもやり遂げてみせます!」
ゼフェルはまた妙に張り切り出している。
少し熱量が過剰な気もするが、
これが最善の方法なのは間違いないので、
俺は外交の処理をすべて彼に一任することにした。
今度はテオが、少し遠慮がちにこちらへ歩み寄ってきた。
後ろにはキャベッツァの
職人たちが、そわそわした様子で控えている。
「八起さん、職人の皆さんにギガントを
紹介したいんですけどいいですか?」
「ああ、思う存分見せてやれ。
新しいアタッチメントの装備も
手伝ってもらうかも知れないからな。」
テオは嬉しそうに頷くと、
「皆さん、こっちです!」と声をかけて、
職人たちの元へと向かっていった。
彼らが格納庫へと移動するのを見送りながら、
俺はふとある事を思いついた。
新しく引く大規模輸送幹線のルート選びについてだ。
シーバルトから、魔王国、
そしてキャベッツァとビエールを繋ぐ長い溝を掘るとなれば、
巨大な山脈や地盤の固い岩盤地帯を避ける必要がある。
毎日命がけで街道を行き来している大商人たちなら、
幹線を通すのにいいルートを
誰よりもよく知っているんじゃないだろうか。
「すみません、みなさん。
少し思いついた事があるので席を外させてもらいます」
俺は客人たちにそう声をかけると、
席を立ち、ガルードの商館まで行くことにした。
「ガルードさんいるかい?」
奥の執務室に向かって声をかけると、
バタバタと足音が響き、一人の男が顔を出した。
「おお、八起殿。いつ声が掛かるかとお待ちしてましたよ」
出てきたのはガルードではなく、弟のザワールだった。
「ザワールさんもこちらにいらしてたんですね」
「はい。兄が面白いものを見つけたという事で、
急遽こちらに来ました……
ところで今、『も』と言われましたか?」
ザワールが不思議そうに眉をひそめた。
「ええ、コレットさんとアンバーさんが魔王城に来られているんですよ。
ご存知ではなかったのですか?」
「はい、初めてお聞きしました。
あの方たちの行動力は商人以上ですからねえ。
まさかもう城に乗り込まれているとは」
ザワールは苦笑いしながら肩をすくめた。
「ははは……。
ところで、ガルードさんはどこかに行かれてるのですか?」
「はい、先程お話した面白いものというものを受け取りに、
少し出かけています」
「そうですか。では、戻ってこられたら
城まで来てくれるように伝えてもらえますか。
ザワールさんにも聞いていただきたい
大規模な話がありますので、 二人で顔を出してください」
俺はそう告げると、四カ国貿易の新たな物流の段取りを
頭の中で組み立てながら、商館を後にするのだった。




