第百四十八話 相互技術交流
昨晩の歓迎の宴は、本当に大いに盛り上がった。
コレットとアンバーは、大食堂でも暴れに暴れて、
魔王国にその強烈な存在感をこれでもかと刻みつけた。
だが、今日は魔王国の、いや、俺たち職人の存在感を
しっかりと刻み付ける番だ。
軽い朝食を済ませた後、俺は大食堂に、
集まった面々に向けて
『多国間大量輸送機関構想』の概要を発表した。
「――という計画を、現在考えています。
後は現場の施工にあたる人員の確保と、
溝を敷設するルートの確保となります。
今回、せっかくお越しいただいている
キャベッツァ農国の職人の方々には、
まず我が国の技術を実際に肌で学んでいただいて、
今後の敷設工事にご協力いただけると
大変ありがたいです」
俺がこれからの段取りを説明し終えると、
「八起殿、お聞きするが。
この話、シーバルト王国は了承している話なのですか?」
さすがはコレットだ、
普段はどれだけ破天荒でも一国の女王である。
これまでまともな交流のなかった国家間で、
何の事前の話し合いもないまま計画だけが先行している事に、
違和感を持ったのだろう。
南のシーバルト王国、中央の魔王国、
そして西のキャベッツァ農国とビエール国。
この長大な距離を繋ぐとなれば、
当然、お互いの領土をまたぐことになる。
「ご心配はよくわかります。
シーバルト王国とはまだ直接話はしていません。
ですが、シーバルト王国の辺境伯領を介して
既にメガ・トランスポーターによる
交易を順調に行っております。
それに、偶然にも今回はキャベッツァの職人方が
こうして魔王城へ来られています。
彼らに我が国の技術を肌で感じていただくには
これ以上ないいい機会と思い、
先立ってここで発表いたしました」
俺がそう告げると、メルが完成させた
車両関連の図面を、大食堂の石壁に貼り付けた。
「これが計画の中心となる、
大規模輸送幹線の設計図面です。
……なお、この先頭車両の形状に関しては、
設計者の個人的な趣味が多分に入っている為、
あくまで参考までにとしておいてください」
俺が苦笑いしながら言うと、
コレットは図面をまじまじと見つめて、
ふっと表情を緩めた。
「ははは、これの設計者はメルちゃんかい?」
「デザインは完全にメルです。
ですが、皆さんよく思い出してください。
この走る仕組み、何かに似ていませんか?」
俺の問いかけに、
真っ先に反応したのはアンバーだった。
「……八起さんが乗っている、
あの軽トラとトランスポーター?」
「そうです。
もう実際に走っている物の、ただの改良版です。
車両をいくつも繋いで、
横に走行補助の壁を設けただけですからね」
その言葉を聞いた瞬間、
そこにいるキャベッツァ農国の職人全員が、息を飲んだ。
「あるものの、改良……」
「……小規模では、すでに完全に運用されている技術か」
職人たちそれぞれが頭の中に、
軽トラとメガ・トランスポーターの進化版を、
確かな現実として想像できたようだった。
ただの夢物語ではない。
すでに現場で実証されている技術の延長線上にあるのだと
理解した彼らの目に、
職人としての熱い炎が静かに灯り始めていた。
「これなら……
俺たちの国の野菜が、シーバルト王国まで一気に運べる!」
「ビエール国の冷えたラガービールを、
俺たちの手で世界中に届けることができるんだな!」
キャベッツァの職人たちが、
興奮を隠せない様子で図面に齧りつく。
「その通りだ。
この仕組みが完成すれば、国境なんて関係なく、
お互いの特産品が行き交い食を豊かにできる。
それに、品物だけではない。 人々の移動も可能だ。
各国に学びたい事を学びに行ける時代が来る。
物流の基盤は魔王国が責任を持つ。
だから、あんたたちの力を貸して欲しいんだ」
俺がそう締めくくると、
職人たちから賛同の声が沸き上がった。
国境を越えた技術の交流が、
今まさに力強く動き出そうとしていた。




