第百四十六話 魔王国と女王様
翌日、予想通りにコレットとアンバーが魔王城に到着した。
「やあ、八起殿。
この魔導客車というのは実に快適だねぇ。
キャベッツァとビエールを行き来するより遥かに楽だったよ」
「急に来てごめんね、八起殿。
どうしても出来上がった新しいビールを、
一刻も早く八起殿に飲んでもらいたくてねぇ」
コレットとアンバーは、
口を開けば普段通りのフランクで豪快な話し口調そのままだ。
だが、さすがに今回の身なりは他国の王城を訪れるにふさわしい、
豪奢で気品のある正装を纏っていた。
気さくな姉ちゃんといった風情だった二人が、
こうして並び立つ姿を間近で見ると、
やはり一国を背負う本物の女王なのだなと
改めて実感させられる。
彼女たちは、俺がキャベッツァ農国に置いてきた
あのトランスポーターとワゴン・キャリアを、
多数の馬に引かせてここまでやってきたのだ。
浮力板のおかげで馬たちも長距離の牽引にもかかわらず、
さほど疲れた様子もなく悠々と城門をくぐり抜けていた。
さらに俺が視線を向けると、
女王たちが乗ってきたメインの客車の後ろ、
トランスポーターの荷台に乗せられた同行者たちの姿があった。
彼らは荷台の上で、
何やら物珍しそうに城の重厚な石壁や
見たこともない魔導具の構造をキョロキョロと見上げている。
「コレットさん、あそこにいる人たちは一体誰なんだ?」
俺が不思議に思って尋ねると、
コレットは爽やかに笑った。
「ああ、実はね。
この客車や荷車を見たうちの鍛冶職人たちがねぇ、
どうしても魔王国の技術をもっと見たいと言うんでね。
連れて来たんだよ」
「連れて来たって……
荷物と一緒にトランスポーターの荷台に
積んできたの間違いじゃねえのか?」
職人を文字通り物資と同じ扱いで運んできた女王の豪快さに、
俺は苦笑いしか出なかった。
とはいえ、わざわざ我が国の技術を視察しに来た
熱心な同業者だ。
同じ職人として無下に扱うわけにはいかない。
彼らの案内は、テオに任せるのが、
一番収まりのいい采配だろう。
「コレットさん、アンバーさん。
紹介が遅れましたが、この二人がゼフェルと、ルナリアです。
我が魔王国内のご案内は、この二人が全て担当します」
俺が背後に控えていた二人を促すと、
彼らは一歩前に出て、
非の打ち所がない完璧な宮廷の礼を披露した。
「私はこの国の政務を統括しております、
ゼフェル・ヴァン・ド・ラングと申します」
「八起様の秘書官、ルナリア・アイゼンにございます。
両陛下が我が国にご滞在の間、不自由のないよう、
私共が身の回りのお手伝いを務めさせていただきます。
何なりとお申し付けください」
流石は我が城の有能な側近だ、
現場の監督としても実に誇らしい。
「コウタロウやガウラ達は、また後ほど紹介させてもらいます。
まずは、長旅の疲れを癒してください」
俺は二人にそう告げて一礼すると、
荷台から降りて所在なさげに縮こまっている
人間の職人たちを引き連れ、
格納庫で作業をしているであろうテオの所へと足を向けた。
「いたいた。テオ、すまねぇな。実はなぁ……」
作業服の袖を捲り上げて重機の手入れをしていたテオを見つけ、
俺は今回の急な職人たちの視察事情を説明する。
「職人の皆さん、このテオが先を案内します。
まだ若いですが、我が国の農業の最前線を任せている現場監督です。
ご安心ください」
「テオ、うちの職人たちのところへ案内してやってくれ。頼んだぞ」
「はい! 八起さん」
テオはハキハキとした実に良い返事で応じ、
緊張気味の職人たちに向き直って挨拶を始めた。
「では、また後ほど歓迎の宴で」
俺は格納庫を後にして宴の準備の手伝いに大食堂へ向かうのだった。




