第百四十二話 なんじゃこりゃあぁ!
俺はどうしてもあの布の中身が気になり、
再びメルの部屋へと足を運んだ。
コンコンコン。
「メル、入るぞ」
中に入ると、ツナギ風作業着姿で、
いたずらをした子犬のような表情のメルがいた。
「師匠……やっぱり……怒る?」
メルは、おずおずとした口調で問いかけてきた。
「いや、怒らないって。
それより、後ろの布の中が気になってな。
新しい軽トラを作り始めたんじゃないのか?
いくら何でもデカすぎんだろ」
壁際に鎮座する布で覆われたその塊は、
どう見ても俺が作った軽トラの二倍、
いや三倍はありそうな大きさをしている。
「ん……みんなで乗る……楽しい……大きくなった……失敗……」
すっかり意気消沈してガクリと肩を落とすメル。
その傍らでは、ボックンも、
同じように小さな肩を落として、うなだれていた。
「ちょっと中を見てみるぞ」
俺はメルに許可を取ると、
その巨大な塊を覆っていた白い布を、一気に引き外した。
「おおっ、こりゃすげえ。……トラック?」
眼前に現れたその骨組みを見て、俺は思わず圧倒された。
それは、俺の作った軽トラの駆動構造や魔法陣の仕組みを、
単純にそのまま巨大化させたような代物だった。
「メル、すごいじゃないか。
俺の居た世界で『大型トラック』って言われてた大きさだ。
接合も魔力の動線も上手に仕上がってる、作りは悪くないぞ」
(だが、そうだな……流石に道幅を考えるとデカ過ぎる。
こんな巨体が走れる道なんて、限られてるな。
それに街に入れる大きさじゃねえ、
曲がり角で立ち往生しちまう……)
「メル、みんなで乗るのは確かに楽しいが、
なんでこんな形になったんだ?」
「軽トラ……大きく……した……」
俺は大切なことを忘れていた。
メルは魔法陣の構築や回路設計に関しては類い稀なる天才だが、
全体の造形やデザインのセンスは皆無に等しい。
「そっか。でもな、軽トラってのは元いた世界じゃな、
狭い道でも仕事ができる様にあのサイズで作られたもんだ。
俺の感覚でこの形にしてしまったんだが、
この世界なら、元の形にこだわらなくていいんだぞ」
「この……形じゃなくて……いい……?」
「おう、好きな形にしていいんだぞ」
俺がそう言った瞬間、メルは一体どんな形を想像したのか、
ぱあっと花が咲いたような明るい表情で目を輝かせた。
そのままメルは、
隣に立つボックンに何か話すような素振りを見せる。
すると、ボックンは、机の上の紙に向かって、
猛烈な勢いで何かを書き始めた。
やがて書き上がった絵を見て、俺の目が見開かれる。
それは、ドラゴンの頭のような先頭車両を持ち、
後ろにいくつもの貨車が連結されていた。
今にも紙面から飛び出してきそうなほど、
爆走する列車の精巧なデザイン画だった。
(おいおい、画家のデッサンじゃねえんだぞ、上手すぎるだろ……)
「メル、これを作りたいのか?」
尋ねると、メルとボックンは、
首がもげてしまいそうな程に何度も頭を上下に激しく振った。
「これかぁ……。たしかに、
俺がいた所にもレールの上を走る似たような乗り物が
あったが、線路がなぁ……。
いや、待てよ。ガイドウェイか!!」
俺はかつて地球で見た、
専用の側壁に沿って走る自動案内軌道式の特殊な乗り物を
思い出した。
アイアンウッドの浮力板で路面抵抗がゼロにできるこの世界なら、
鉄の線路を何キロも敷かなくても、簡単なガイドの壁さえ作れば、
この長大な連結編成を安全に走行させられる。
「メル!図面引くぞ。手伝え!」
「ん!」
俺はメルの突飛なアイデアから、
国境を越える全く新しい大量輸送機関の全貌を想像し、
職人の熱い魂を震わせながら、
二人で設計台の大きな図面へと向かうのだった。
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