第百四十一話 行動力って脳筋の親戚か!?
緊急事態だと判断し、夜を徹して軽トラを爆走させて、
大急ぎで魔王城に帰ってきた俺は、
そこで驚愕の事実を知ることになる。
ブレーキを踏み込み、魔力の向きを変えて制動をかける。
流石に全力に近い速度から急制動は車体がきしんだ。
エントランスの前に車を止めると、
俺とゼフェルは息を切らせながら城の中へ飛び込んだ。
「今帰ったぞ!皆は無事か!?」
正面玄関の重厚な扉を勢いよく開けると、
俺は声を張り上げた。
他国での不穏な空気や、メルからの無線を思い出して、
最悪の現場状況を覚悟していた。
「おじさまぁ、おかえりなさいませぇ」
シオリがおっとりといつも通り、出迎えてくれる。
「どうしたのおじさん、そんなに慌てて」
書類を抱えたルナリアが、不思議そうな顔でこちらへ歩いてきた。
「師匠、何かあったんですか!?」
コウタロウまでが、怪訝な顔で走ってきた。
どう見ても全員が、傷一つなく極めて平穏そのものの様子である。
拍子抜けした俺は、
真っ先に頭をよぎった最悪の可能性を口にした。
「あれ……メルは?メルは無事なのか?」
俺は肩で息をしながら、そこにいない弟子の安否を確認する。
すると、廊下の奥からノエルも姿を現した。
「メルなら転んで膝擦りむいていたので治してあげましたよ。
今は部屋にいるはずです」
「……それだけか?」
「なにか慌ててはいましたけど、
お姉さん? が来るって言ってました」
ノエルが首を傾げながら教えてくれた。
俺の脳の処理が一瞬だけ追いつかなくなる。
「お姉さん……?まさか……コレットか!?」
「コレットさんが来るんですか!?」
コウタロウが驚きに目を丸くする。
「わからん、とにかくメルの所に行ってくる」
俺はかつてガラクタ部屋だったメルの工房へと急いだ。
あの無線の緊迫感の正体を確かめないことには、
俺の中の危機的状況は変わらない。
部屋の前に到着すると、固めた拳で重厚な扉を叩いた。
ドンドンドン。
「メル!メルいるか、入るぞ」
扉を開けて中に入ると、そこには広げた図面から、
バツの悪そうな顔を半分だけ覗かせたメルが佇んでいた。
「師匠……ごめん……無線機……壊れた……飛んでった……」
どうやら俺との通話中に部屋の中で派手に転んでしまい、
その拍子で手から無線機を思い切り投げてしまったらしい。
それが何かに激突して粉々になり、
あんな不気味な切れ方をしたというわけだ。
「お、おう、メルが無事なら良かった。
それより、コレットが来るのか?」
「ん……来る……フライ……食べに来る……」
「は?」
あまりに予想外の返答に、
俺は間抜けな声を出してしまった。
「姉さんと……無線で……話した……
らがあ?……出来た……ついでに……来る……」
メルは淡々と、しかし事も無げに恐ろしいスケジュールを口にした。
(ついでって、どっちがついでだ?
ビールが出来たから来るのか、
それともフィッシュフライが目当てなのか……。
いや、それにしたって行動力が早すぎるだろ!)
「いや、一大事だ! 他国の王族が来るなんて重要事項だ!」
俺は頭をガシガシと掻き毟りながら、
大急ぎで大食堂へ全員を集め直した。
息を整えて、事の次第を全員へと話す。
「キャベッツァ農国のコレット女王が来る。
多分、新しいビールが完成したらしいから
ビエール国のアンバー女王も来るはずだ!
急ぎで接待の準備をして欲しい」
現地ではコレットの勢いと圧に押され、
なし崩し的にフランクな関係で接してしまっていたが、
ここは我が魔王国の本拠地だ。
一国の主を迎えるとなれば、
現場の監督としてもしっかりと形を整えて出迎えたほうがいい。
「ルナリア、ゼフェル、シオリ、接待の準備を頼んでいいか?」
「ええ、分かったわ。
すぐに客室の用意と、お迎えの段取りを組むわね」
ルナリアが手際よく書類をまとめ、
ゼフェルが内政の指揮を執るために頷いた。
だが、俺はふと、現地で見たあの破天荒な女王たちの姿を思い出した。
きっと、あの二人には宮廷料理のような
格式張った豪華な食事は興味が無いだろう。
何でも屋としては、
相手のニーズに合わせたもてなしを考えるのが一番の基本だ。
「ここは、新魔王国の原点、
照り焼きバーガーセットにジャンクフードでおもてなしだ!
酒盛りになるはずだからな……。
高級な料理よりも、
エールやラガービールに最高に合うジャンクな料理の方が、
あの人たちも絶対に喜ぶはずだ」
「わかりましたぁ、ポテトにマヨに唐辛子ですぅ。
タルタルソースとぉフライもぉ、楽しくなりますねぇ」
シオリが嬉しそうに提案してくれる。
その間に、俺はコウタロウに向き直った。
「コウタロウは蛇ーメン用意できるか?
せっかくだから新しいのせ物に明太子を使ってみよう。
塩ラーメンに明太子、最後に白髪ネギだ」
「塩ラーメンに明太子ですか!?
うわっ、師匠、それは絶対に旨いですよ!
すぐにデカバミスープを仕込みます!」
コウタロウが目を輝かせ、
さっそく調理場へスープの材料を揃えに向かった。
コレットたちが急ぎで向かっているとはいえ、
ビエール国から魔王城までの距離を考えれば、
少なくともあと二、三日は時間があるだろう。
事前の準備を調えるには十分な時間だ。
(ふぅ……。聖法国の刺客とかドラゴンの逆襲とか、
そういう重大な問題が起こってなかったことに、
まずは胸をなでおろす……)
俺は工房でメルの後ろに布をかぶされたある物が気になり
改めてメルの部屋へと足を運ぶのだった。




