第百三十七話 特産と特産が国を繋ぐ
俺は翌日、レオンハルト辺境伯領へ向けて出発する。
事前に無線機を使って現地と連絡を取り合い、
スムーズに面会できる手筈はきっちりと整えておいた。
今回は積載する荷物が多いこともあり、
コウタロウたちは俺の軽トラがこちらに戻るのを待ってから、
キャベッツァ農国へと出発する事になった。
道中、助手席でゼフェルは
俺から直接ここまでの出来事や詳細を聞いて、
終始深く感動していた。
ハンドルを握る俺の横顔を、
彼はまるで偉大な先駆者を見るような熱い眼差しで
見つめてくる。
そんなドライブを経て目的地に到着した俺たちは、
さっそく辺境伯に出店祝いの挨拶をし、本題に入ることとなった。
「先日のセレモニーには参加できずにすみませんでした。
ちょうどキャベッツァで別件の大きな商談中に、
聖法国との間で色々と問題が起きましてね……」
事実を少しだけ曲げて、俺はもっともらしい言い訳を
口にする。
「こちらでも聖法国より妨害があったとルナリアから聞きました。
もしよろしければ、
そちらで拘束しているという司祭と話をさせてもらえないですかね」
「ええ、構いませんとも。
我々の尋問に対しては『知らない』『わからない』の
一点張りで、こちらとしても困り果てていたところです」
辺境伯が重苦しく頷いた瞬間、俺の隣でゼフェルが一歩前に出た。
「お任せ下さい。このゼフェル、我が国の威信と智謀に懸けて、
必ずやその男の口を割り、すべてを白日の下に晒してみせましょう」
やる気に満ちたゼフェルは案内されて尋問室へと向かう。
残った俺は、レオンハルト辺境伯に向けて
新たな外政戦略を切り出した。
「辺境伯、実は先日にルナリアがこちらの市場で
見つけた魚を使って、こういう料理を作ってくれました」
俺は持参した時間停止のコンテナから、
揚げたてのフィッシュフライと千切りキャベッツァ、
そしてたっぷりのタルタルソースを取り出した。
「これを、こうやってバンズに挟んだ『フィッシュサンド』です」
手際よく組み立てたそれを辺境伯の前に置く。
「コンテナで揚げたての温度を保ったまま運んできたので、
冷める前にぜひ食べてみてください」
「こ、これが……我が国の海で獲れた、
『スーケトダーラ』だというのか!」
(……スケトウダラじゃねえか。名前そのままだな……)
俺は心の中で小さく吹き出しながらも、顔を崩さずに頷く。
「どうですか? この国の特産品を使った、ご当地サンドです。
言ってみれば、この国でしか食べられない
新たな特産品、目玉メニューですよ」
辺境伯は大きく一口かじり、
そのサクッとした食感と旨味の広がりに目を見張った。
「……美味い! これを我が国のバーガー店でも
出して良い、ということか?」
「そうです。今まで以上にお互いの利益に繋がる商品だと考えます。
それに、キャベッツァ農国の『キャベッツァ』と、
まだ試作の段階ですが、ビエール国から届く
長距離の流通に耐えられる『ラガービール』が交易品に加わります。
これで、離れた国同士でもお互いを経済的に支え合える
仕組みが出来上がります。
もちろん、その間の物流は我が魔王国が責任を持って預かります」
俺は今、この国境を越えた巨大な供給ラインの構築を
行っていることを真剣に伝えた。
「すばらしいです! この仕組みが完成した時、
我が国にも新鮮な各種野菜に、極上の酒類といった嗜好品が安定して
行き渡るわけですね!」
レオンハルト辺境伯は興奮気味に顔を紅潮させ、
すぐさま背後の側近たちと熱い議論を始めた。
「この素晴らしい提案については、近日中に国王様にも
直接ご報告いたします。
八起殿、ぜひ我々にも協力させてください!」
「ええ、よろしくお願いします」
がっしりと握手を交わす。
これで近隣諸国との間の外政的な経済協力体制は、
ほぼ完璧に完成する。
俺が心の中で大きな手応えと確信を得た、まさにその時だった。
尋問に向かっていたゼフェルが、何やら酷く暗い顔をして
部屋に戻ってきた。
「……八起殿……すみません、何も聞き出せませんでした。
……あの男は、本当に何も知らなかったのです!」
軍師の悲痛な報告が室内に響く。
聖法国の闇は、俺たちの想像以上に深く、
そして不気味な形のまま覆い隠そうとしていた。




