第百三十五話 魔王国と聖法国の謎
今回『柄』を使ったことで分かった事実は、
魔王国で精神魔法の影響を受けていたのが、
ゼフェルとルナリアの二人だけだったという点だ。
ガルム将軍とガウラには何事も起きていなかった。
その違いは、前魔王の目の届く魔王城にずっと詰めていたか、
それとも城外に居たかという環境の差だろう。
あるいは、獣人族特有の野生の精神力か、
はたまた圧倒的な脳筋力によるものか……。
シオリに関していえば、精霊にはそもそも精神系の魔法が
一切無効化されるという事だろう。
「ゼフェル、本題に入ろう。前魔王は何をしようとしていたか、
何か分かることはあるか?」
俺が真剣な面持ちで問いかけると、ゼフェルは深く頭を下げた。
「申し訳ございません。あの男が最終的に何をしようとしたのか、
その明確な目的は正直分かりかねます。
ただ、世界を全て我が手中に収めようと考えていたことは
間違いありません。
その一環として、様々な魔道具と魔法を私的に研究しておりました。
その結果、魔王国の財政は悪化の一途を辿ったのです。
その後は、八起殿がご存知の通りにございます」
そう、俺のこの異世界生活は、そこから始まったのだ。
ガラクタまみれの城で廃退した魔王国の財政を立て直すところから、
今のここまでやってきた。
だが、それに比べると、敵対して来た聖法国の情報が
あまりにも無さ過ぎる。
コウタロウたちから以前に聞いた断片的な話だけでは、
いまいち要領を得ないのが現状だ。
「ルナリアは聖法国の信者と直に会ったよな。
現場でなにか感じたことはなかったか?」
俺が視線を向けると、
ルナリアは腕を組んで記憶を辿るように眉をひそめた。
「そうね……。まるで、こちらの話を聞こうとしなかったわ。
自分の言いたいことだけを喚き散らしている感じだし、
あの司祭にいたっては欲望丸出しだったし。
まともな情報らしいものは得られなかったわね」
「んん、そうなると、実際にレオンハルト辺境伯領に行って、
捕まっているその司祭に直接会ってみるか……」
俺は白髪混じりの短髪をガシガシと掻きながら、
今後の段取りを考える。
軽トラで行けば、片道にそんなに何日もかからない。
先の出店セレモニーにも俺は顔を出せなかったから、
辺境伯への挨拶も兼ねて行くにはちょうどいい機会だ。
「今回はゼフェルも同行してくれるか?
俺よりもうまく話を聞き出してくれるだろ?」
俺の頼みに、ゼフェルは背筋をぴしゃりと伸ばし、
軍師の鋭い眼差しをぎらつかせた。
「お任せ下さい。天地神明に懸けて、
必ずやその男からすべての情報を剥ぎ取り、
八起殿の御期待に沿う成果を成し遂げてみせます」
この世界でも、ゼフェルを超える有能な軍師はそういないだろう。
そんな男が頼もしい表情で深く頭を下げる。
こうして俺たちは、聖法国の闇を暴くため、
シーバルト王国辺境伯領へと向かう遠征の段取りを
立てていくのだった。




