第十三話 国宝です!
「――よし。ひとまず『現場』の武器は揃ったな」
八起は調理台に鎮座する錬金釜……もとい、
マヨネーズの詰まったカメを満足げに眺めた。
大広間ではルナリアとゼフェルが招待状の発送を終え、
シオリと子供たちが会場の準備に追われている。
すべては順調。あとは、この「爆弾」が
どれほどの威力を持つかを確認するだけだ。
「おーい、みんな。ちょっと手を止めてくれ。
一休みして新作の試食といこうぜ」
八起の呼びかけに、慌ただしく働いていた面々が集まってきた。
シオリに頼んでおいた、蒸したての巨ジャガが
皿に盛られて運ばれてくる。
黄金色の湯気が立ち上るホクホクの芋を前に、
八起はニヤリと笑い、背後に隠していた小鉢を差し出した。
「てれってて~ん!」
八起が口で放った気の抜けた効果音と共に披露されたのは、
艶やかで滑らかな、淡い黄金色のソースだった。
「……何ですか、それは。
見たこともないドロリとした物体ですが」
ルナリアが眉をひそめ、困惑の表情を浮かべる。
ゼフェルもイケメンな顔を近づけ、
未知の物質を検分するように見つめた。
だが、その横ではガウラがすでに理性を失っていた。
昨日、その「魔法」を一口舐めてしまった彼女の口からは、
すでに滝のようなヨダレが止まらずに垂れている。
「ボス……早く……早くそれを……。
あたしはもう、一刻も待てない……!」
「まぁ落ち着け。ルナリアさん、これはあんたの
提供してくれた『資材』が形を変えたもんだぜ」
「えっ……? 私の、美容オイルが、こんな……
黄色くて不透明な何かに?」
ルナリアは、自分が毎晩大切に肌へ塗り込んでいた
高級オイルが、まさか食用ソースに化けるとは思っていなかったらしい。
その変貌ぶりに、感動よりも先に
「私の女子力が胃袋に吸い込まれた」という複雑な表情が顔を出した。
「いいから、まずは食ってみてくれ。
巨ジャガとの相性は、俺が保証する」
八起はスプーンでたっぷりとマヨネーズをすくい、
蒸したての巨ジャガの上にポテリと落とした。
立ち上がる芋の熱気が、ソースの中のオイルの香りと
酢の酸味をフワリと引き立てる。
「……いただきますっ!」
ガウラが我慢の限界を超えて食らいついた。
その瞬間、彼女の尻尾がプロペラのように激しく回転を始める。
「……ぬぅぉぉぉ!? う、うめぇ!
なんだこれ、昨日のよりさらに芋と合体して……
これはもう、食べ物じゃない!国宝だ! 国の国宝にしよう!!」
ガウラの咆哮に押されるように、
ルナリアとゼフェルも恐る恐る口に運ぶ。
その直後、二人の動きが止まった。
「……信じられません。あんなにツンとしていた酢が、
卵と油に抱かれて……これほど優しく、かつ
暴力的な旨味に変わるなんて……」
ルナリアは頬を染め、自分の美容オイルがもたらした
「奇跡」に、悔しさと恍惚が入り混じった溜息を漏らした。
ゼフェルは震える手でマヨネーズの付いた芋を凝視し、
確信に満ちた声で呟く。
「……なるほど。八起殿はこの黄金色のソースを
『外交の矛ほこ』とされるおつもりか。
この味を知った者は、もはや魔王国に
跪ひざまずかざるを得ない。
まさしく……食による世界制覇だ」
「いや、ただの『美味しいマヨネーズ』なんだけどな……」
八起のツッコミも虚しく、魔王城の面々は
マヨネーズという名の「国宝」の虜となっていた。
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