第百二十五話 ラーメン第二弾!塩蛇ーめん
職人の腕に期待をしながら、
俺たちはキャベッツァ農国に戻ることにした。
「メル、帰りは運転頼んでいいか?」
「……わかった」
「えっ! メルちゃん運転もできるの?
お姉さん隣に乗っていい?」
コレットが目を輝かせて割り込んでくる。
メルはまだ恥ずかしいのか、
言葉を返さずに頭だけを大きく縦に揺らし、
そそくさと運転席に乗り込んだ。
「ザワールさん、相談したい事があるんだ。中で話そう」
「わかりました、乗らせていただきます」
俺が促すと、ザワールは快くワゴン・キャリアへ向かう。
「じゃあ、私はメルちゃんの隣に乗るから。
むさくるしいおじさん達は後ろで仲良くね」
(……確かにむさくるしいが、余計なお世話だっ!)
コレットの容赦ない毒舌に心の中でツッコミを入れつつ、
俺は片手を上げて商談のために客車へと乗り込んだ。
ワゴンがゆっくりと動き出す。
アイアンウッドの床板のおかげで、振動は一切ない。
「ザワールさん、早速ですが……」
「ええ、わかりました」
「えっ?」
俺がまだ本題を何も言わないうちに、
ザワールから即座に了承の返事が返ってきた。
驚く俺を見て、彼はいたずらっぽく笑う。
「兄のガルードが、
『八起殿が相談してきた時はとにかく乗っかっておけ、絶対に損はない』
と常々申しておりましたので」
「はっはっはっ、兄弟そろって大商人ですね」
その絶大な信頼が嬉しく、俺は彼とがっしりと握手を交わした。
「今回キャベッツァに来たのは、
野菜の仕入れのほか、ラーメンの市場調査も兼ねていました。
新しく餃子も開発出来たので、
あわせて出せる店舗を出店したいのですが、どうでしょうか」
「ええ、いい物件を押さえてあります。
本来はテリヤキバーガーでしたかな、
あの店舗用として進めていた場所ですが、
ぜひラーメンにお使いください」
流石はザワールだ、現場の段取りが早くて本当に助かる。
細かい条件や流通の話を詰めていると、
ワゴンの動きが静かに止まった。
どうやら到着したようだ。
ザワールはワゴンを降りると
「すぐに店舗の準備にかかります」
と言い残し、小走りでどこかへ行ってしまった。
「八起殿、もう少しメルちゃんと走ってきたいんだけどいいかな?」
助手席の窓からコレットが顔を覗かせる。
「いいですよ。メル、気を付けて運転するんだぞ」
「ん……」
メルは短く応じると、軽トラは商館でワゴンを切り離し、
再びアクセルを踏み込んで、
そのまま勢いよくどこかへ走り去っていった。
ひとまずやることが無くなった俺は、宿へと帰るのだった。
「お、いい匂いがするな」
宿の調理場に入った瞬間、
鼻腔をくすぐる上質な香りに足が止まった。
奥ではコウタロウとノエル、
そして野菜売りのアルの三人が、
大きな寸胴鍋を囲んで何やら真剣に作業をしていた。
「戻ったぞ。なんかいい匂いがするなぁ、何を作ってるんだ?」
「師匠、お帰りなさい!
三人の合作で新しいスープを作ったんです。
味見してください!」
コウタロウが自信満々に、
小さな器に注いだスープを差し出してきた。
それは濃厚なドラゴンスープとはまた違った、
上品で芳しい香りのスープだった。
色は淡い琥珀色で、鍋の底が見えるほど美しく透き通っている。
ひしゃくで一口、口に運んでみる。
「……うっ、旨いなこれ。今までとはまた違った、
塩味のあっさりスープだな」
率直な感想を口にすると、
三人は子供のように両手を叩き合い、
大歓声を上げた。
「ノエルの聖水とアルの野菜に、
昼間のデカバミから出汁を取りました!」
コウタロウが誇らしげに胸を張る。
なるほど、あの大蛇の肉をさっそく有効活用したわけか。
聖女の清らかな水と新鮮な野菜、
そして大蛇の滋味深い旨味が、完璧な黄金比率で調和している。
これは十分に看板商品になるクオリティだ。
「コウタロウ、これで明日ラーメン作れるか?
急だが、さっそく試食会をやろう」
俺はさらに、新店舗のオープンに向けて
詰められそうな案を次々と出していくのだった。




