第百二十三話 また、お前か……
今回の道中は楽なもんだ。
メルの運転も最初は荒々しかったが、
慣れてくれば鼻歌交じりに楽しそうにハンドルを握っている。
何事もなく三日間のドライブは無事に終了した。
キャベッツァ農国に到着し、
俺たちは真っ先に広場にあるコウタロウの屋台に向かう。
「コウタロウ、戻ったぞ。ついでに応援を連れてきた」
「ノエルとメル! 助かるよ、ありがとう!」
ワンマンでの営業を続けていたコウタロウが、
安堵の笑みで二人を歓迎する。
だが、メルはフラットなトーンのまま視線を逸らした。
「私……違う……。軽トラ……運転……したかった……だけ……」
「えぇぇぇ、メルが運転してきたの!?
師匠、僕も軽トラ運転したいです!」
コウタロウが羨ましそうに目を輝かせる。
若者らしいその反応に、俺は思わず苦笑いした。
「わかったよ、帰りは運転させてやるから」
(あぁ、俺にもあんな風にハンドルを握りたがる時期があったなぁ……。
昔、車中泊で友人と日本一周したっけなぁ……)
懐かしい地球の記憶に少しだけ目を細めていると、
慌ただしい足音が石畳を叩いた。
「いいところで会いました!
すみませんが、今すぐ力を貸してもらえないでしょうか。
デカバミが街の近くに現れました!」
警備隊主任のジランが、額に汗を浮かべた真剣な表情で、
息を切らせて駆けつけてきた。
「デカバミ?」
「家畜などを一頭丸呑みにしてしまうくらいの大蛇です!」
その言葉に、俺は街道で出会った巨大な蛇の魔獣を思い出す。
またあの手合いか。
「わかった、すぐに行く。皆、行けるか?」
「「「はいっ!」」」
全員を軽トラの荷台に乗せると、
アクセルを踏み込んで急ぎ足で現場へと向かう。
現場に到着すると、すでに何人かの警備隊員が地面に倒れ、
巨大な蛇が鎌首をもたげていた。
「ノエル、けが人がいるようだから救護を頼む。コウタロウ、行くぞ!」
「えっ、師匠はここにいて下さい! 危ないですから、僕が倒します!」
勇者としての義務感からか、コウタロウが前に出ようとする。
俺は作業着の下のボディースーツに魔力を流し込んだ。
「秘密兵器がある、実戦投入だ! メル、援護してくれ!」
「ん……」
俺はスーツの筋力補助を全開にし、地面を蹴って全力で走りだした。
凄まじい推進力が身体を前へと押し出す。
同時に、荷台からメルの雷撃魔法が鋭く走った。
「ライトニング」
激しい電光が視界を染め、
その衝撃に大蛇はたまらず頭を下げた。
標的の高度が落ちたその一瞬の隙を見逃さず、
俺は跳躍し、剥き出しになった頭部へ渾身の拳を真っ直ぐ叩きつける。
ベキィッ、と生々しい音が響き、
特性に衝撃拡散を持つスーツのおかげで俺の拳には痛みが一切残らない。
頭部を完全にひしゃげさせた大蛇の巨体は、
凄まじい地響きを立てて、
コウタロウの目前に叩きつけられるようにして倒れ込んだ。
「コウタロウ、仕留めろ!」
「はいっ!」
少し遅れたコウタロウの一撃が、
鋭く風を切り裂いて大蛇の首をはね飛ばした。
周りに居た警備隊の面々は、
ほんの数秒の間に起きた一瞬の出来事に、
言葉を失って呆然と立ち尽くしている。
しかし、その場にいる誰よりも一番驚いていたのは、
目の前で親方の超絶パワーを見せつけられたコウタロウであった。
「師匠、なんですか今のは!?
師匠って、そんなに強かったんですか!?」
「ふふっ、これが秘密兵器だよ。メルが開発した強化スーツだ」
俺は息を整えながら、少し誇らしげに胸を張ってみせた。
筋力補助の性能は期待以上だ。
これなら大城壁の外での作業も十分に自衛ができる。
「す、すげぇーっ! 僕もそのスーツ欲しいです!!」
コウタロウが興奮冷めやらぬ様子で身を乗り出してくる。
だが、その言葉を聞いた瞬間、
俺の脳裏にあの猛烈に魔力を根こそぎ吸い上げられた
恐ろしい感覚が鮮明に蘇ってきた。
「いや……その……なんだ……。
これを作るのに、ものすごくおぞましい思いをだな……。
勘弁してくれ、もうあれは勘弁だ……」
思い出すだけで体中の全エネルギーが抜けるような錯覚に襲われ、
俺はそのままガクリと膝から崩れ落ちた。
「し、師匠!?」
心配そうに駆け寄ってくるコウタロウの声を遠くに聞きながら、
俺は新しい装備の確かな手応えと、
二度と味わいたくない製作工程の恐怖に、
ただただ地面を見つめてため息をつくのだった。




