第百十七話 天才か!?うん、知ってた……
先行したガウラとワンが街道の安全を確保してくれたお陰か。
俺はこれといったトラブルもなく、順調に魔王国へ到着した。
見慣れた魔王城の重厚な城門をくぐる。
無事に帰還を果たすと、最初に使用人のシオリが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませぇ、おじさまぁ。
皆様はぁ、大食堂でお待ちですぅ」
変わりなくおっとりとした話し方で迎えてくれるシオリ。
俺は旅の汚れを払うように上着の襟元を正し、声をかけた。
「ただいま、出迎え悪いな。
それと、後で少し話したいことがあるんだがいいかな?」
キャベッツァ農国への道中で膨れ上がった違和感。
これだけは確認しなくてはいけない。
俺の言葉に何かを察したのか、シオリの表情が変わる。
普段とは違う無機質な返事が返ってきた。
「はい、かしこまりました。魔王様」
その声音にいつもの甘さは一切ない。
今はこの変わり様に気をとめる余裕はない。
俺は持ち帰った時間停止のコンテナを携え、大食堂に向かう。
食堂の大きな扉を開けると、
そこにはゼフェル、ガルム、メル、ノエルの面々が待機していた。
「おかえりなさいませ、八起殿。
ガウラには休息を取らせております」
ゼフェルの一声から、臨時の食堂会議が始まった。
「ただいま。早速だが、
ガウラに持たせた指示書は読んでくれたと思う」
俺は席に着きながら、今回の出来事をすべて話す。
そしてコンテナから、餃子と譲り受けたエールを取り出した。
「今回はキャベッツァとビエールで起業する。
商品はコウタロウのラーメンと、この餃子だ。
さらにエールを改良したラガービールも売る。
これから醸造に必要なものを揃えるつもりだ」
「らがーびーる……?
八起殿、どのような物なのでしょうか?」
ゼフェルは卓上の琥珀色の液体を鋭く見つめ、首を傾げる。
「ゼフェルと将軍は飲めるな。まずはこれを飲んでみてくれ。
メルとノエルは成人してからな」
「チッ」
メルが不満げに小さく舌打ちした気がした。
きっと気のせいだろう。俺はスルーして話を続ける。
「ところでメル。指示書で説明した設備は用意できそうか?
冷却と温度を一定に保つ設備だが」
「問題ない……完璧……」
いつものフラットなトーンのまま、
メルはドヤ顔で親指を立てた。
その傍らでは、お揃いの作業着を着た精霊のボックンも、
同じように胸を張って親指を立てている。
「じゃあ、後は低温下で発酵する酵母の培養だな」
俺が頭の中で工程を考えていると、メルが割って入ってきた。
「完璧と言った……カ・ン・ペ・キ!」
「へ?」
あまりに自信満々な様子に、つい間抜けな声が漏れる。
「フッフッフッ……我は選ばれし魔眼使い。
矮小な生物の創造など容易い事」
フラットなトーンから、急に中二病のスイッチが入るメル。
そのセリフが響き、大食堂に一瞬だけ冷ややかな空気が流れた。
いつものことながら、この切り替えの早さには脱帽する。
「師匠の……説明……カ・ン・ペ・キ……褒める……」
「低温で活動できる酵母を作れたのか??」
「ん」
メルは短く頷いた。
「マジか!」
俺はあまりの驚きに、ろくな返事が出来なかった。
古いワインに酵母の存在を期待してはいたのだ。
だが、まさかメルがこうも簡単に作り出すとは。
さすがと言うか魔導技術に関しては天才である。
職人として、彼女をリスペクトせざるを得ない。
そんなやり取りを横目に、ジョッキを傾けていたガルム。
彼は感心したように髭を震わせた。
「八起殿、このエールはコクと香りがとても良いですな。
実に滋味深い」
「ああ、そうだろ? これはビエール国の特産だ。
だが常温発酵だから日持ちが悪い。
通常の輸送では品質が保てない代物なんだ」
俺はゼフェルと将軍に向け、現場の技術的な課題を説明していく。
「だがメルに説明した設備なら、日持ちするラガーが醸造可能だ。
一番の課題だった低温用の酵母も、メルが用意してくれた。
……本当にありがたい話だ。
新しいビールの銘柄を『メルビール』にしてもいいな」
「ヤダ……」
即答だった。
しかも最高にフラットなトーンで全否定されてしまう。
少しぐらい喜んでくれてもいいじゃないか。
「まあ、概要はこんなところだ。
設備を確認し、問題なければ荷車に積んでビエール国に運ぶ。
みんな、段取り良く頼むわ」
俺は会議を締めくくった。
そして俺は、向き合わなければならない『疑念』を晴らすため、
シオリの待つ部屋へ俺はゆっくりと歩き出すのだった。
気に入って頂けたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】と評価で応援お願いします!




