第百十話 三種の神器ここに降臨
「ではまず、コレットさん。そちらの方から行きましょうか」
俺はテーブルの上に置いた特製のコンテナを開け、
中から一皿の料理を取り出した。焼き上がったばかりの
香ばしい焦げ目が眩しい餃子だ。
「これは『餃子』といいます。材料はすべて、このキャベッツァ農国で
手に入るものばかりで作りました。……さあ、召し上がってみてください」
本来なら穀物酢とラー油を揃えたいところだが、今はまだ無い。
今回は魔王城で生み出した『醤油』のみを添えて差し出した。
「はふっ、はふぅ……! っ!? な、何ですかこれは。
なぜ、いつまでもこんなに熱々なのですか!?」
コレットが驚愕の声を上げる。コンテナの時間停止機能と保温の理屈は
説明が面倒なので、俺は軽く手を振って受け流した。
「ああ、それはまた別の話という事で。
本来は穀物から作った酢と唐辛子から作ったラー油という物も
タレに入れます。
まずは味の感想を聞かせてください」
「……信じられません。これが、我が国の野菜で作られたものですか?
キャベッツァを刻んで包むだけで、
これほどまでに肉汁の旨味と、野菜の甘みが引き出されているなんて……」
「お、お姉! これ、すごくエールに合うよ! いくらでも飲めそう!」
隣で豪快に食らいついていたアンバーが、ジョッキを片手に
身を乗り出してきた。狙い通りだ。この『庶民の味』に、
エールが合わないはずがない。
「そうでしょう。……さて、次はアンバーさん。
あなたの国の『エール』……改良してみませんか?」
「改良……?」
アンバーがジョッキを置いた。その瞳には、醸造家としてのプライドと、
得体の知れない提案への警戒が混ざり合っている。
「そうです。改良です。このエール、常温で発酵させてますよね?
だから足が早い。……だが、同じ材料でも発酵の方法を変えるだけで、
より雑味のない、長期保存が可能な『ビール』を作り出す事が出来ます」
アンバーは俺の話を半信半疑といった様子で聞いている。というより、
どちらかと言えば「何を馬鹿なことを」という疑いの眼差しだ。
「……あー、こちらの話が先でしたね。信じられないのも無理はない。
実は俺、この世界の人間じゃないんですよ。元魔王によって召喚された、
別の世界の人間なんです」
「「…………は?」」
姉妹の声が重なった。
元魔王と現魔王が別人だという噂は耳にしていたようだが、
まさか中身が『異世界人』だとは夢にも思わなかったのだろう。
「隠すようなことじゃないんで言ってしまいますがね。俺のいた世界には
魔法なんて便利なもんはありません。その代わりに『科学』ってやつが
発達していて、空飛ぶ金属の塊や、地面を走る馬のいらない乗り物が
当たり前に普及してます」
俺は一息つき、二人の顔をまっすぐに見据えた。
「興味があるなら、俺がここまで乗ってきた『軽トラ』って乗り物を
お見せしますよ。あれを見れば、少しは俺の言う『理屈』も信じて
もらえるはずだ」
隠すことより、すべてを明かした方が仕事はスムーズに進む。
それが長年積み重ねた経験だ。
「あと、一つ付け加えておくと、
広場で『ラーメン』を売ってるあいつ。本物の『勇者』です」
「「…………」」
あまりに突拍子のない、世界の前提をひっくり返すような話の連続だ。
流石の女王姉妹も、これには絶句してフリーズ――するかと思いきや。
「アンバー! すぐに用意しなさい! 広場へラーメンを食べに行くわよ!」
「わかった、お姉! 勇者が作るラーメンとやら、見極めてやろうじゃない!」
「……えっ?」
椅子を蹴立てて立ち上がった二人の凄まじい行動力に、俺の方が唖然とした。
「ちょ、ちょっと! 今の俺の話、ちゃんと理解しました!?」
「詳しい理屈は後よ!現実はこの目で見て確かめる、
ならばまずは『ラーメン』の味を確認するのが先決だわ!」
農作業着の袖をまくり上げ、鼻息も荒く部屋を飛び出していくコレットと
アンバー。
「……たく、姉妹揃ってこれかよ。まいったねぇ」
俺は苦笑いと共にコンテナを抱え、慌ただしい姉妹の背中を追いかけた。
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