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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第九章 ファンタジー世界に馴染んだおっさん――ドラゴン骨で追放勇者とラーメン作る!弟子を取ったら部屋追い出される

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第百話 考えてもわからないものは悩んでも無駄

翌朝、俺たちは早々に野営地を片付け、キャベッツァ農国への移動を再開した。

軽トラの運転席で正面に続く一本道を眺めながら、昨晩から胸の奥に

(よど)んでいた疑問を切り出す。


「コウタロウ、昨日の話だがな」


「はい。師匠は何に気づいたのですか?」


助手席のコウタロウが、身を乗り出すようにしてこちらを見た。

その目は冗談を待っている時のそれではなく、

一人の弟子としての真剣な光を宿している。


「ん、まずな……ここが異世界だということだ」


「え? 今さらですか? もう一年以上もここにいるのに」


コウタロウが拍子抜けしたような声を上げる。俺はハンドルを握り直した。


「いや、事象としての話じゃねえ。俺がこの世界に来た直後の話だ。

場所は魔王城の玉座……しかも、俺は素っ裸だった。

風呂に入っていたからな。まあ、そこはいい。俺は困惑こそしたが……

決して驚きはしなかったんだよ」


「風呂から玉座で驚かないって、正直意味がわからないですよ。

僕は召喚された時、周りに威圧感のある騎士たちがいて、

豪華な宮殿にいて……状況がわからなくて落ち着くまで、

相当時間がかかりましたから。普通そうじゃないですか?」


「だろ? なのに俺は、その場にいたルナリアたちを適当にあしらって、

さらには――シオリに……、ごく当たり前のように作業着の仕立てを

頼んでたんだ」


俺はそこまで言って、一度言葉を切った。

窓の外を流れる荒野の景色は、どこまでも単調だ。


「たしかに、それは変ですよ。だって、初めてシオリさんを見た時は

声が出せないくらい驚きましたから。僕たち勇者一行は聖法国から

魔王国を目指して旅をしてきましたけど、道中で魔物には会っても、

異形の亜人(あじん)には一度も会いませんでした」


「ああ、俺もこの一年、城下町や現場を回ったが、

シオリ以外のアラクネなんて一度も見たことがねえ」


「…………」


「コウタロウ、ここでの会話は内密にな。シオリは、

ただ人目につかない地域の種族かも知れんからな」


「はい、わかってます。でも、なんだか……」


コウタロウが何かを言いかけた、その時だった。


「――なんかヤバそうなのが来たぞ」


俺はブレーキレバーを踏み込んだ。

前方。乾いた大地を割るようにして、巨大な影が這い出してくる。

見るからに敵意を剥き出しにした、大型の蛇のような生き物だ。

その太さは軽トラの車体ほどもあり、鎌首をもたげた高さは、

余裕で屋根を超えている。


「師匠、止めて!」


コウタロウが叫んだ。完全に停車するよりも早く、

助手席のドアを蹴り開けるようにして飛び出していった。


一瞬の出来事だった。コウタロウが着地と同時に、腰の剣を鞘から抜く。

銀光が走ったと思った瞬間、大蛇の巨体が、

まるでスローモーションのように真下にズレた。


ドサッ、という重苦しい音が響き、鎌首の先が地面に落ちる。

噴き上がる鮮血を浴びることもなく、コウタロウはひらりと元の場所へ着地した。


「師匠お、ノエルのエプロンすごいです!!

こんな簡単に倒せたの初めてですよ!」


満面の笑顔で戻ってきたコウタロウが、その純白のエプロンを(ひるがえ)す。

返り血一つついていない、その不自然なまでの白さ。

俺はハンドルを握ったまま、動かなくなった大蛇の死体と弟子を交互に見た。


「……さすが勇者だな。あのサイズをひと振りかよ」


「へへ、地球で剣道やってましたから!」


剣道をやっていたで説明つかない勇者の力。

ノエルの重い愛情が加わることで、頼もしくもあり恐ろしくもある。

この勇者が(ひる)むアラクネの『シオリ』を、俺はあの日、

当たり前のように受け入れていた。


「師匠? どうかしましたか?」


不思議そうに覗き込んでくるコウタロウの顔。


「……いや、なんでもねえ。この蛇、このままに出来ないだろ?」


どうするか悩んでいると、前方から商人らしき商隊が近づいてきた。


「いやあ、助かりました。お強いですねえ!

大蛇のおかげで通れなくて困り果てておりました」


先頭に立つ男が、丁寧な身振りで馬車から降りてきた。


「申し遅れました。キャベッツァ農国の首都で商いを営んでいる

『ザワール』と申します」


「ご丁寧にどうも、俺は八起、そしてコウタロウです」


名乗った瞬間、ザワールの目が驚きに見開かれた。


「おお、走る白い箱! あなたが八起殿ですか! 兄から話は伺っております」


「兄? もしかして、ガルードさんか?」


「はい、さようで。それで、もしよろしければ、こちらの大蛇を

買い取らせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」


ザワールの申し出に、俺とコウタロウは顔を見合わせた。


「買い取るって……こんなもん、何に使うんだい?」


「ハハハ、八起殿はご存知ありませんか。この大蛇の皮は

丈夫な防具の素材になりますし、何よりその肉は強壮剤の原料や

高級食材として重宝されるのですよ」


「へぇ、これ食えるのか」


「ええ、少し癖はありますが、滋養強壮には最高ですな。

八起殿、よろしければ礼代わりに少し切り分けましょう。

道中の食事のたしにどうぞ」


ザワールは手際よく配下に指示を出し、

大蛇の身の一部を丁寧に切り分けてもらった。


「悪いな、ありがたく頂戴するよ。ザワールさん、またどこかでお会いしましょう」


「ええ、楽しみにしております。八起殿、コウタロウ殿、道中お気をつけて!」


ザワールの一行と別れ、食材用の連結荷車に肉を入れた。

俺は再び軽トラの運転席に座る。


「蛇の肉かぁ……。師匠、これどうやって食べます?」


「そうだな。晩飯に食ってみるか」


俺は再び軽トラのペダルを踏む。

考えてもわからないものは、悩んでも無駄だ。

現場仕事と同じで、答えはいつだって目の前の現実の中に転がっている。


だが、俺の中に「不自然さ」という名の芽は、

じわじわとその根を伸ばし始めていた。

第百話までこれました。評価等で応援してくださっている方、

欠かさずお読みいただいてる方、ここまでがんばれているのは

みなさんのおかげです。まだまだ、続きますが今後もよろしくお願いします。

気に入っていただけましたらブックマークと評価で応援ください。

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