第九話「ドライブデート」
二人で【はなしのぶ】を出て、九条さんに自然に手を引かれて近くにあるコインパーキングへ。
そこには、きれいに手入れのされた白っぽい車が停まっていた。車種は分からない。
たぶん、詳しい人じゃないと分からないような……輸入車かな?
運転席と助手席しかない。
……見慣れない形の車だった。
「どうぞ。慣れない人には狭く感じるかもしれませんが」
「あ、はい。ありがとうございます。きれいな車ですね。輸入車ですか?」
問いかけると、九条さんの表情が緩んだ。
肯定なのだろうか?
助手席のドアを開けてくれているので、そのまま素直に助手席へ収まる。包まれるような感覚になって、不思議な感じがした。
私も一応、車の免許は持っている。都心部は電車で十分生活できるうえ、事務所で使ういわゆる『社用車』は提携先の国産車。
実家でも国産車しか乗ったことがないから、車には詳しくはない。
映画で見たような気もするけれど……。
丁寧にドアを閉めてから、運転席側にまわった九条さんが乗り込んできた。ドアが閉まると、車体が僅かに揺れる。
「じゃあ、行きましょうか。ジュエリーショップのあと、時間的にちょうどお昼になると思うので──」
「はい」
「僕が顧問を務める飲食店なんですが、なかなか美味しくて。ぜひ翠さんにも紹介したいなと思っていて」
話をしながらも、淀みなく車は発進の流れへと移っていく。その手際の良さに、少し感心してしまう。
心なしか、九条さんが楽しそうに見えた。
──今、なんて言ってた?
気になったけれど、何を言われたかを処理しきれずに車の動きへの緊張が勝ってしまった。
***
「そう言えば……」
初めて乗る、他人の運転する車。最初のうちは緊張していた。
九条さんの落ち着いた運転にいつの間にかすっかり、安心しきっていた。
そんなタイミングで、隣から声が上がる。
「はい」
「指輪についてなんですが、翠さんの好きな色は何色ですか?」
色? 指輪に色って……一般的な色しか思い浮かばないけれど。
「指輪って、シルバーかプラチナ、ゴールド……そのあたりになるのでは?」
「あ、いや。言葉が足りませんでしたね。せっかくなので、翠さんのお好きな色の石を入れられたらと思ったんです」
好きな色の石……。
言われても、すぐには思い浮かばない。
一応、好きな色はある。でも、それに近い石なんてあるのだろうか?
宝石なんて、正直あまり縁がない。色としてのイメージはあっても、それが好みの色かと言われると少し悩む。
「淡い……青色が好きなんですけど、ほとんど水色というか」
「はい」
「ほんの少しだけ緑が混ざっているような色で……和服の小物なんかで見かけることが多い気がします」
「なるほど。かなり淡い、透明感のある青ですね。少し緑がかったような……」
運転に集中しながら、九条さんは思考している。少し間を置いて、彼は続ける。
「和名では『瓶覗』と呼ばれる色かもしれませんね」
「あ、それです。昔、着付けの師匠から聞いたことがあります」
「じゃあ、それに近い色の石を探してみましょうか」
気がつけば、車は目的地にほど近い交差点に差し掛かっていた。
──この辺、たしかラグジュアリーブランドの宝石店の並ぶ通りじゃなかったっけ?




