第十話「カルセドニー」
硬い音色のドアベルが鳴って、私たちはジュエリーショップ「蒼彩堂」へ入店した。
店内は高級感があり、少し気後れしてしまう。私は弁護士事務所に勤務しているとは言え、そこまで高給取りというわけではない。
こういう店とは無縁な生活を送ってきていたから、居心地の悪さを感じてしまう。
「いらっしゃいませ、九条様」
「今日はよろしくお願いします。彼女に似合う指輪を選びたくて」
「かしこまりました。では、指のサイズとご希望の商品について詳しくお伺いいたしますので、こちらへどうぞ」
店内の高級感に気圧されている間に、隣りにいた九条さんがスタッフの方と指輪の話を進めていく。
指のサイズ……。
アクセサリーにあまり興味がないから、自分の指のサイズなんて分からない。
そんなの、意識したこともなかった。
なぜか当たり前のように九条さんと手を繋いで、スタッフの案内で用意された椅子に座る。
目の前では指のサイズを測る準備が、着々と進んでいった。
「金属アレルギーはありますか?」
指のサイズを測りながら、スタッフに質問される。
考えてみるけれど、覚えがない。
「たぶん、ないです」
次々と、矢継ぎ早に質問を繰り返される。
指のサイズを測り終えると、目の前には別のスタッフがサイズの合うシンプルな指輪を、トレーに並べていた。
呆けている間に、指輪の選定が進んでいく。
「翠さんは肌が白いので、シルバーかプラチナが映えると思います」
九条さんの声が少し後ろから聞こえた。座っているのは私だけ。
ますます居心地の悪さを感じる。
「石は……玉髄はありますか?」
「少々お待ちください」
九条さんに言われて、スタッフのひとりが店の奥へ姿を消す。
少しして戻ってきたスタッフの手には、いくつかの石が乗ったトレーがあった。
どの石も、私の好きな『瓶覗』と同じような、淡い青緑の色味だ。
私、お店に入ってからそんな話、一度もしてないと思うんだけど……。
「ああ、いい色ですね。翠さんはどれが良いですか?」
「え? どれが……?」
石に見惚れていて、質問の意図が理解できず……一瞬反応が遅れた。
私が選ぶの? この中から?
視線が迷いそうになった……はずだった。
自然と吸い寄せられる視線。その先にある石は、とてもきれいな『瓶覗』だった。
「これですか?」
「あ……」
私の視線に気づいた九条さんが、すぐにその石を特定して指を指す。
「シーブルーですね。きれいな色だ。翠さんはセンスが良いですね」
「え? あ、はい。……ありがとうございます?」
透明感のある、澄んだ青色だった。
「では、石はこれで。加工はカボションカットで、土台をプラチナにしましょう」
「かしこまりました。他にご入用のものはございますか?」
「そうだな。ペアリングも見ておきたいんですが、ありますか? なるべくシンプルなもので」
「承知いたしました。持ってまいりますので、少しお待ちくださいませ」
九条さんが次々と話を進めていく。私はやはり、置いていかれてしまった。
良いなと思ったものではあるけれど、話が進むのが早い。
……感情が置いてけぼりになっている。
トレーを持ったスタッフが戻ってきて、並んだ指輪を九条さんが覗き込んだ。
数回視線を動かした後、彼はおもむろにひとつの指輪を手にして、私の指に嵌める。
さながら、プロポーズでもするかのように……ひざまずいて。
「うん、これがいい。では、このペアリングの購入手続きをお願いできますか?」
「かしこまりました」
スタッフとやり取りしていた九条さんが、財布からカードを取り出す。
──あれ、カード?




