第四話「答えは出せない」
柳田さんと叔母が離席してから、静寂が私たちを支配する。
半個室とは言え、元いたラウンジからはそれなりに離れている分、静けさが耳に来る。
「少し、緊張されていますか?」
柔らかく微笑みながら、九条さんが質問してくる。
観察されていた。分かった瞬間、その微笑みに胡散臭さを感じる。
「まあ……それなりに」
脳裏に一瞬、あの悪夢のような過去のお見合いがよぎる。
「ご存知かもしれませんが、叔母にセッティングされた三度のお見合い、すべてを破談にしていますから」
気が乗らないままお見合いが続いたことは、柳田さんが知っている。それならば、あの人を経由して、それなりに知っているはずだ。
昔、お世話になった人に、黒歴史とも言えるお見合いの件を知らせてしまった、己の口の軽さを呪った。軽率だった。
しかも、その人の紹介で今、お見合いをしている相手、九条さんにまでその事実が知られている可能性を考えると、穴があったら入りたくなってきた。
──やっぱり、帰りたい。
「なるほど……それなら『三度目の正直』ではなく、『四度目の正直』にするのはどうですか?」
「……は?」
思わず、取り繕うのを忘れて、素の反応をしてしまう。
今回のお見合いが成立する。その前提で話が進みそうになる。
「いえ、すみません。少し、説明が不足していましたね」
崩れなかった九条さんの微笑みが、ここに来て苦笑へ変わった。
少し、彼が身動ぎする。
「この歳になると、紹介や縁談の話は自然と増えます。弁護士という職業柄、なおさらですね」
そう話す九条さんに、軽く相槌を打つ。確か、九条さんは今、二十九歳だったはず。
私の視線は、手元のグラスに。中に入っていた氷が、少しずつ溶け始めていた……。
「ただそれでも、『結婚』という形を長く続ける相手として、想像ができる相手には出会えませんでした」
彼は苦笑を消して、私を見る。
「西園寺さん。──あなたを除いて」
「……はあ」
気乗りしないまま受けた、最後のお見合いで、その相手から私はいったい何を聞かされているのだろうか。
「もちろん、現時点では『仮』の話です。もし、負担に感じるようであれば、ここで帰っていただいて構いません」
手元のグラスで、氷がカランッと澄んだ音を立てる。視線を戻すと、九条さんの表情は最初の微笑みを称えていた。
私に、何を望んているのだろう?
「……それで九条さんは、どうされたいんですか?」
「判断は西園寺さんに委ねます。ただ、条件は知ったうえで判断をしていただけると、私も助かると言いますか……」
そこで九条さんは、また苦笑する。
はっきりと条件が見えない。何をしたいのかも不明瞭。
私も、決断できるだけの情報が足りない。答えは出せない。
手元のグラスに視線を向けて、私は一度だけ言葉を整理する。
……判断材料が少なすぎる。
このまま黙っていれば、きっと話は止まってくれる。
そうすれば帰れる。
でも……本当にそれでいいの?
頭の片隅で、警鐘が鳴る。
促して、条件を聞いてみようか?
「……わかりました。お話をうかがって、その上で判断します」
──気がつけば、そう伝えていた。
2026.05.24 大幅改稿




