第31話「夏の気配」
「ワンプレート用のお皿だけで良いの?」
「うん。これが良い。これ、前から欲しかったの。せっかくだからあの人の分も……って」
キッチン雑貨店内でたくさんのアイテムを、かおりちゃんと見て回っていた。なんとなく、どれもしっくり来ないなと感じていて、最終的に店内奥に陳列されている食器コーナーに行く。真っ先に目についたのは……ワンプレート用のお皿だった。
そのお皿の色は、九条さんが良く身につけている、オリエンタルブルー。
──あの人の色だった。
せっかくだからとお揃いで、前から欲しかったベビーブルーのお皿をセットで購入してもらった。
「ま、良いわ。で? 結婚前には会わせてもらえるんでしょうね? 旦那さんに!」
「家族同士の顔合わせが済んでないの。その後かな?」
これからの予定を思い出して、かおりちゃんと九条さんが会えるチャンスがあるか考えてみる。
多分、家族同士の顔合わせが終わったら、しばらくは大丈夫なはず……。
今度、九条さんへ予定を聞いてみよう。
「そういえば翠、あんた、そろそろ夏物のカジュアル着物が欲しいって言ってなかったっけ?」
「あ、うん。前に着てたやつ、補修して着ようと思ってたんだけど、ちょっとできなくってさ」
何年か前に購入したカジュアル着物、通称『プレタ着物』だったかな?
それが散々着倒したからか、補修しようにもできないレベルになっている。一応、和裁は祖母から習った事があるから、できなくはないけれど……今、手持ちのアイテムではできない。
いや、やり方はあるんだろうけど、本格的な手段を知らないのだ。
だから、リメイクを考えている。
「珍しいね~。あんた、基本的に器用にそういうの直してたのに」
「前に着てたやつは新居に使うのれんにリメイクしようかなって」
「ほほう。良きですね」
雑談しながらモールの中を歩いていく。
視線の先には、イベント広場で夏祭りのイベントの準備をしていた。
スーパーボールすくいやくじ引きの準備がされていて、その周辺には立入禁止のポールが広がっている。
「もうすっかり夏だね~。あ、あそこ、呉服店じゃん。せっかくだし、見に行こうよ!」
「そうだね。今年、夏休みみんなと一緒に花火大会とか見に行けるかな……?」
「旦那さんは?」
「……だから、まだ旦那さんじゃないってば」
よくここまで、ぽんぽんと言葉が出るものだ。
でもかおりちゃんのペースは、小さい頃からこんな感じで、なんとなく落ち着く。
呉服店の入口には夏の反物を、着物っぽく着付けたマネキンがディスプレイされている。
がっつり、猫柄。反物も猫なら、帯も猫柄だ。そして、帯留めなどの小物類もなんか猫の肉球みたいなのがついてる……。
可愛いけど、目立つな……。
「可愛いけど目立つね、この着物。でも面白いな~全部猫!」
かおりちゃんと一緒にいると落ち着くのは、こういうところがあるからだろうな。
苦笑が漏れた。
「かおりちゃん、奥に半幅帯置いてる。見てみる?」
「シンプルなのしか無いのかな~。地味目の浴衣しか持ち合わせがないから、いっそ新調するか?」
「新しいの買うの?」
「悩み中。私も『いい人』探ししたいなって思ってさ~。翠見てたら羨ましくなった」
二カッと笑う。
何ていうか、かおりちゃんは時々男前だ。
ん? 漢前の方が良いか?
しかし……『いい人』か。私と九条さん、かおりちゃんから見て、羨ましいと思われるような関係なのかな……?
「??」
「どうしたの?」
「いや、なんか、見られてた?」
かおりちゃんが、突然周囲をキョロキョロと見回す。何かの視線を感じたような言い方。
私も周囲を見回すけど、特にこちらを見ている人もいない……というか、人混みがすごくて、視線ががっつり噛み合わないと気づかないレベルだ。
「気のせい?」
「わかんない」
少し考えてから、かおりちゃんに提案してみる。
「気になるなら、うちのお父さんに相談してみる?」
「いや。気のせいかもしれないし。私らを見てたわけじゃないかもしれないし」
「……念のため、じゃダメ?」
「わかった。一応ね」
とりあえず、着物や浴衣の購入は保留にして、その日はずっと二人で行動した。
遅くならないうちに帰宅しようと相談して、解散は十六時半を過ぎたころ。
私はその時、過去に何度か感じた視線を思い出していた……。




