第30話「おそろいの食器」
九条さんと新居のファブリック関係を見に行く約束をしている、その前日の土曜日。
婚約の件を報告した友人に、結婚祝いをプレゼントしたいからと誘われて出かけることになった。
「かおりちゃん。おまたせ!」
「やほ! 翠。久しぶり~」
待ち合わせ先の駅前で、幼馴染のかおりちゃんと合流した。
かおりちゃんは黒髪ショートボブで、子どもと外で遊ぶことが多いからか、日焼けしている。
動きやすそうなクロップド丈のジーンズと、トップスはグレーの半袖パーカー。荷物はミドルサイズのリュックに入れられているようだった。
活発な印象の彼女だけれど、実際にはそこまで運動神経はよくない。
彼女は幼稚園の教員をしていて、その日常は常に戦場……例えるならば『カオス』と呼んで差し支えないそうだ。
その影響なのか視野が広く、違和感を拾いやすい子だ。危険察知能力が高いと言うか……どう言えば良いんだろう?
とにかく、私が困っている所を何度も助けてくれた親友だ。
「で、今日はショッピングモールで、あんたが欲しいものを買おうと思っててさ!」
「適当に選んでくれても良かったのに……」
「そういうわけにいくか! 大事な大事な幼馴染が、見合いとは言え結婚決めたんだから、盛大に祝うに決まってるでしょ!」
「かおりちゃん……声が大きいよ。ちょっと恥ずかしいって……」
うちの職場も大概にぎやかだけれど、比べ物にならないほどの『戦場』に立っている関係か、かおりちゃんはとても声が大きい。
たまにその声の大きさに、私は驚いてしまう。
昔から、彼女の声は大きかったけど……。
「で、どうする? ランチを済ませてから……翠のことだから、キッチンアイテムとかが良いかな?」
「一応、モールの中、全部見て回って、それで決めても良いかな?」
「お~っけい! 選びがいがあるわ! あ! 美咲には連絡したの?」
「うん。したけど、今、ちょっと忙しい時期みたいで……シフトが合わなかったから、また次回ってさ。お祝いの品はカタログギフト送ってくれるってメッセージ来てた」
賑やかだ。
高校時代の友人の話で盛り上がりながら、私とかおりちゃんはショッピングモールを目指すのだった。
***
「……それでさ~うちの弟がやらかして!」
「ああ、一輝くん? かおりちゃんと確か……四つ違いだっけ?」
「そうそう! この四月から新社会人になったってのに、やってることが高校の頃から変わらなくてさぁ」
モールにつく頃には、末の弟くんの愚痴をこぼしながら、お店の品を見ているかおりちゃん。
今いるお店は化粧品の専門店。プチプラ商品が置いてあるけど、奥の方にはブランド系のコスメも売っている。
店の入口には新商品と一緒に、夏の暑さ対策グッズが置かれていた。
今年の商品はアースカラーのものが多くて、爽やかな中にも温かみのある印象だ。
「やっぱダメだわ。綺麗だな~とか、かわいいなって思うけど、なんか翠のイメージじゃない」
顎に手を当ててぶつぶつ言いながら、私の少しだけ先を歩きながら、かおりちゃんは目についた商品を手に取っていく。
彼女の独特の賑やかさは、しんどくならなくて良い。
あ、あのお店……。
「……ねえ。かおりちゃん。あのお店は?」
「ん? どこどこ? 興味あるもの見つかった?」
私の声に反応して、かおりちゃんが隣に並んだ。
視線は私が見ている方向へ向かっている。
「あ、興味というほどじゃなくて……ちょっと気になった?」
「それを人は興味と言うんでしょうよ。……まあ、良いや。見に行こう」
かおりちゃんからツッコまれた。
それから二人で斜向かいにある、インテリアショップへ入る。
明日のファブリック選びの参考になるかなと思ったんだけど……お店に入ると方向性が完全に違った。
「思ってたのと違った。すごいファンシー……」
「やめとく?」
「ちょっとイメージに合わないかな?」
「OK! じゃ、別の店行きましょ」
決断が早い。
***
「やっぱりこういう店が翠のハートを掴んで離さないねえ」
「やっぱりって……」
かおりちゃんの言葉に苦笑が漏れる。
キッチン雑貨専門店の中をうろつきながら、気になったものに触れてみる。
さっきからかおりちゃんは喋りっぱなしだ。
「二人で暮らすんだったら、これくらいはいるんじゃないの? 鍋のサイズ」
「どうなんだろう? 一人だと基本、そこまで大きな物を使わないからな~」
周囲の棚に視線を走らせながら、かおりちゃんの言葉に反応する。
あ、これ、有名なキッチンアイテムメーカーの片手鍋だ……。
形がシンプルなのは良いし、色もまあかわいい。けど、実用性で考えると、使ってるうちに焦げてきたりするから、色はあんまり可愛いと使いにくく感じてしまう。
「あ、じゃあ、せっかくだから旦那さんとおそろいの食器とかにしたら?」
かおりちゃんが、突然提案してきた。
──おそろい。旦那さん。
その言葉に、動揺してしまう。
「……おそろい」
「何照れてんの」
「いや、おそろいって……」
かおりちゃんに突っ込まれても、いまいち実感が湧かない。
いや、湧かないんじゃない。自分の心に『蓋』をしている感覚になる。
まだ、親友であるかおりちゃんにも……私たちの始まりが『契約』であることを伝えられていない。
──自分の気持ちに名前をつけてはいけない気がして……。




