第20話「快適さへの困惑」
思っていたより、話がすんなり進んでいる。
九条さんに、口を挟まれる可能性も考慮していたのに……。
そのことが、少しだけ不思議だった。
「では、その仕様で正式に手配いたします」
店長さんの言葉が、淡々とその場に落ちていった。
隣の席では九条さんが目を丸くして私を見ていた。
「なんですか?」
「ああ、いえ。翠さん、すごいなぁと思って……」
九条さんはつぶやくようにそう言って、また考え込んでしまった。
何がすごいんだろうか?
ただ、良いなと感じたもの、好きだなと感じたものをつなぎ合わせていっただけなのに……。
「ただ好きなもの、好みの触り心地のものを選んでいっているだけなのに、トータルすると統一感が出るのがすごいんですよ。普通はそうはなりません。いいものに触れて生活していたからこそ、出来ることと言うか……」
「え……?」
視線を床に落として、九条さんは続けた。
「釣書を拝見したときから思っていましたが、やはり翠さんは自分のすごさに気づいていらっしゃらないみたいですね」
そう言われても、いまいち自分がすごいとは思えない。
ただ、個人的に好きだなと思ったものを、感覚のままに選んだ結果なのに。
それが形になるのって、普通じゃないの? 感性なんて、人それぞれ。良いと思うものも人それぞれなのに。
「そういうところがね……」
九条さんが何かを呟いたが、あまりにも小さな声で聞き取れなかった……。
***
最終的には私の独断と偏見で食器棚を、九条さんが食器棚の印象に合わせてダイニングテーブルセットを注文する形になった。
オーダーが通り、この店でやるべきことが終わったので、店を出る。
車までの移動中、どこか浮かれた様子の九条さんの反応が、理解不能だった。
店員さんに見送られて店を出るまえから、当たり前のように九条さんと手が繋がれている。
気がつけば手を取られ、自然と手を繋がれるものだから、無理に引き剥がすのもおかしいかと思ってされるがままだ。
そして当然のように助手席までエスコートされて、私も当たり前のように助手席に収まった。
「さて、モノは相談なんですが、このあと、夕飯は何を食べたいですか?」
運転席に収まった途端、九条さんは発進の準備と同時に言った。
『一緒に組み立てていく』という話が、今、九条さんの中で何をするにも『相談』にでも置き換わったのだろうか?
切り替えが早いと言うか、飲み込みが早いというか……柔軟性がある?
でも、悪い気はしない。
支配されていた感覚が、少しずつ薄れていく気がした。
「……翠さん?」
「いえ。ちょっと、何を食べたいかを聞かれても、ランチがボリュームたっぷりだったので、思い浮かばなくて……」
「ああ、確かに。かなりサービスしてくれたみたいですからね」
「え、あれってサービスだったんですか!?」
ランチのボリュームを思い出して、思わず声が上ずる。
かなり、大きめの鶏肉だったように記憶している。いくら胸肉と言えども、昨今の物価高であのお値段で提供するって相当だ……。
「ところで、話は変わりますが……ここの件を説明しなかったことで、かなり不快な思いをされたんじゃないかと思うので、疑問に感じたことはすべて聞いてください」
そう言いながら、九条さんはとりあえずと言わんばかりに車を発進させた。
……夕飯の話、何も決まってないけど、いいんだろうか?
「さっきの……」
「はい」
「夕飯の話、なにも決まっていないのに、いいんですか。動き出しちゃって」
「夕飯の時間までは、すこし余裕もありますし、せっかくだからドライブでもと思ったんですが、嫌でしたか?」
──嫌ではない。というか、嫌じゃないから困る。なんで嫌だと思わないんだろう……?
結局、その日はドライブに切り替えた。
途中、カフェで軽くお茶をして自宅まで送ってもらう。
帰ってから空腹感を覚えたけど、何かを作る気にならなくて、お茶漬けだけ食べて済ませちゃった。




