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マリッジ・コントラクト  作者: 星つむぎ
序章:最後のお見合い

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2/19

第2話「まとも、らしい」

 お見合いの数日前、叔母が突然自宅を襲撃してきた。

 曰く──振袖を着ろと。

 なんでわざわざ失敗する見合いのために、美容室で予約までして振袖を着なければいけないのか……。

 たぶん、理由を聞いても『若いうちしか着られない』とか『未婚の今だから』とかその程度の理由しか言われないんだろう。

 分かってる。押し問答をしても無意味だと。

 でも! 面倒なのは面倒なんです。

 普通に訪問着でも良いと思うんだけど……。一人で着付けられるし。


「良いじゃない。振袖、着なさいよ。せっかくなんだし……」

「予約しなきゃいけないじゃない」

「いつものところが受けてくれないなら、私が紹介してあげるから!」

「……で、何時起き?」

「当然、三時」


 あ、面倒。




 ***




 最終的に言い負かされて、振袖を着ることになったお見合い当日。

 会場は落ち着いたホテルの、ラウンジだった。

 周囲を見回しても、振袖なのは自分だけ。

 ひどく、場違いに感じられる。

 居心地の悪さを感じていると、正面に見慣れた上司の姿を見つけた。


「土屋先生?」

「お、西園寺さん。冴子さんもお久しぶりです」

「ええ、お久しぶりです~」


 ネクタイをわずかに緩め、気持ちだらしなく感じられるスーツ姿。

 それでも、視線の鋭さは消えていなくて、それだけで有能そうに見える。

 実際、軽いのに仕事は出来る。

 叔母の離婚の際にお世話になった弁護士さんで、今の私の上司でもある。


「今日は見合いの日だったな。九条くんだろう?」

「はい。柳田さんの紹介なので、仕方なく」


 不満が顔に出る。

 それを見た土屋先生は、頬を掻いて苦笑した。


「そんな嫌そうな顔して~。柳田くんのことだから、変なのは連れてこないって」

「……だと良いんですけど」

「翠、遅れるわ。それじゃ、土屋先生失礼します」

「はい。先生、失礼します」


 叔母に促されたので、土屋先生へお辞儀してから、待ち合わせのラウンジへ向かう。

 私はもう、すでに疲れ切っていた……。




 ***




 スタッフに案内されて、奥の席へ。

 そこにはすでに、二人の男性が席に着いている。


 きっちりとしたスーツに、落ち着いた物腰の四十代後半くらいの男性。

 見た目からして、まさしく『弁護士』という雰囲気の人だった。

 彼が、私が過去にトラブルに巻き込まれた時に助けてくれた柳田さん。

 この人のメンツを潰さないために、今回、渋々ながらお見合いを受けた。


 そしてもう一人。

 落ち着いた濃紺のスーツ姿に、上品なグレーのネクタイをつけている。

 控えめな所作で目立つわけではないけれど、妙に視線が残る。

 丁寧に撫でつけられた髪が、真面目な印象。

 それでもどこか、その人に底の知れない違和感を抱く。

 柔らかい微笑みを浮かべて、柳田さんと談笑している彼が九条 秀一(くじょう しゅういち)


 ──今回のお見合い相手だった。

2026.05.24 大幅改稿。

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