第2話「まとも、らしい」
お見合いの数日前、叔母が突然自宅を襲撃してきた。
曰く──振袖を着ろと。
なんでわざわざ失敗する見合いのために、美容室で予約までして振袖を着なければいけないのか……。
たぶん、理由を聞いても『若いうちしか着られない』とか『未婚の今だから』とかその程度の理由しか言われないんだろう。
分かってる。押し問答をしても無意味だと。
でも! 面倒なのは面倒なんです。
普通に訪問着でも良いと思うんだけど……。一人で着付けられるし。
「良いじゃない。振袖、着なさいよ。せっかくなんだし……」
「予約しなきゃいけないじゃない」
「いつものところが受けてくれないなら、私が紹介してあげるから!」
「……で、何時起き?」
「当然、三時」
あ、面倒。
***
最終的に言い負かされて、振袖を着ることになったお見合い当日。
会場は落ち着いたホテルの、ラウンジだった。
周囲を見回しても、振袖なのは自分だけ。
ひどく、場違いに感じられる。
居心地の悪さを感じていると、正面に見慣れた上司の姿を見つけた。
「土屋先生?」
「お、西園寺さん。冴子さんもお久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです~」
ネクタイをわずかに緩め、気持ちだらしなく感じられるスーツ姿。
それでも、視線の鋭さは消えていなくて、それだけで有能そうに見える。
実際、軽いのに仕事は出来る。
叔母の離婚の際にお世話になった弁護士さんで、今の私の上司でもある。
「今日は見合いの日だったな。九条くんだろう?」
「はい。柳田さんの紹介なので、仕方なく」
不満が顔に出る。
それを見た土屋先生は、頬を掻いて苦笑した。
「そんな嫌そうな顔して~。柳田くんのことだから、変なのは連れてこないって」
「……だと良いんですけど」
「翠、遅れるわ。それじゃ、土屋先生失礼します」
「はい。先生、失礼します」
叔母に促されたので、土屋先生へお辞儀してから、待ち合わせのラウンジへ向かう。
私はもう、すでに疲れ切っていた……。
***
スタッフに案内されて、奥の席へ。
そこにはすでに、二人の男性が席に着いている。
きっちりとしたスーツに、落ち着いた物腰の四十代後半くらいの男性。
見た目からして、まさしく『弁護士』という雰囲気の人だった。
彼が、私が過去にトラブルに巻き込まれた時に助けてくれた柳田さん。
この人のメンツを潰さないために、今回、渋々ながらお見合いを受けた。
そしてもう一人。
落ち着いた濃紺のスーツ姿に、上品なグレーのネクタイをつけている。
控えめな所作で目立つわけではないけれど、妙に視線が残る。
丁寧に撫でつけられた髪が、真面目な印象。
それでもどこか、その人に底の知れない違和感を抱く。
柔らかい微笑みを浮かべて、柳田さんと談笑している彼が九条 秀一。
──今回のお見合い相手だった。
2026.05.24 大幅改稿。




