第1話「どうせ、これもハズレだ」
──どれもこれも、ハズレだった。
目の前に差し出された釣書を見て、頭をよぎった言葉。
本当のところは盛大に、それはもう盛大に溜息をつきたい。
でも、できない理由がある。
私は、西園寺 翠。
土屋法律事務所でパラリーガルとして仕事をしながら、司法書士を目指している。
二十六歳。独身。気ままな一人暮らしを満喫中。
賑やかな上司と、しっかり者の先輩事務員、真面目な派遣社員と働いている。
……まあ、悪くはない職場だと思う。
で、今回。というか、今。
目の前に差し出された釣書に、辟易としているのだ。
なにせ、この釣書を受け取ってしまえば、四度目のお見合いになる。
なんで四回もお見合いをする羽目になったか。
すべては、叔母の暴走から始まった……。
「だからね、翠。私、学生結婚したじゃない。まあ、離婚したんだけどさ。でも子供は早いうちに産んだほうが、絶対! 楽なのよ!」
「いや、それは分かった。でも、私がお見合いする理由にはならないよね」
叔母に詰め寄られながら、自室の壁にへばりつく。
持論は分かった。理解も出来る。
だけど、そこに自分が絡む理由が分からない。
うちは両親の結婚が少し遅かった。
それが叔母には気に入らなかったらしい。
子供も私一人。
叔母からすると、もったいないのだそうだ。
理由は不明。
で、叔母にとって兄である父と、私が同じ轍を踏ませるわけには行かないと、一念発起したらしい。
──それが、今から半年前のこと。
そこから三回、あまり間を置かずにお見合いをさせられたのだ。
私に拒否権はなかった……。
一人目。
声は、やけに落ち着いていて心地よかった。
「母も同じことを言っていました」
……会話の三分の二が『母』で占められていた。
私への興味は、皆無だった。
二人目。
笑顔で話し始めたと思ったら、止まらなかった。
専門用語の洪水に、相槌だけが上達する。
……質問をした覚えは、たぶん一度もない。
喋らせてもらえずに、終わった。
三人目。
理想を語る姿は、最初だけは立派に見えた。
「普通はこうするべきです」
……その『普通』に、私が含まれていない。
私を自分の理想通りに動かしたい、支配欲を強く感じた。
めちゃくちゃ疲れた。
全部、ハズレだった。
結婚したいわけじゃないし、お見合いを続けるのも嫌になっている。
見合いを終えるたびに、上司から面白がられるのも疲れた。
「次はちゃんとしてるから!」
聞き慣れてしまった三度目の言葉。
『ちゃんと』ってなんだっけ?
そう悩んでいると、叔母が不意に話し出す。
「だってね、今度の人はあの『柳田さん』の紹介なのよ!」
……ああ、完全に逃げ道を塞がれた。
大恩のある人からの紹介だなんて……最悪だ。
どうしてこうなった。
腹を……くくるしかない?
「……わかった。これで最後だからね。今後は一切、話を持ってきても受け付けないからね」
「ありがとう~翠! 分かってくれて嬉しいわ!!」
喜色満面の叔母に、ため息をつきながら差し出された釣書を手に取る。
──どうせ、これもハズレなんだ。
2026.05.24 大幅改稿。




