第18話「ノクティス」
高速道路の出口を出て、二つ目の信号を超えた辺りでウインカーの音が鳴る。
左へ曲がって直進していくと、左手に『Noctis』と書かれた看板が見えてきた。
海外発祥の高級家具店だ。確か、日本法人は二十五年前に設立されて、そこから代理店になったと聞いたことがある。
駐車場に車を入れると、静かにエンジンが止まった。
──ここ、確か、完全予約制のお店だったはず。いつの間に予約したのだろう?
お店を見て固まってしまった。
車から降りない私に気づいた九条さんが、助手席までまわってくる。
ドアを開けて、静かにエスコートされる。
「驚かせてしまいましたか?」
「あ、ええ。あの……ここ、確か、完全予約制だったかと思いますが」
「そうです。この代理店だけなんですけどね」
ああ、またされるがままになってしまう未来が見える……。
お店の自動ドアをくぐると、入口に数名の店員さんが並んでいた。
「いらっしゃいませ、九条様」
きれいに揃ったお辞儀で出迎えられて、店舗の責任者らしき五十代前半くらいの男性に丁寧に案内をされる。
今の自分の置かれた状況が、完全に流され始めていることに気づく。
場違い感がすごい。
「やあ、いらっしゃい、秀一くん。婚約者さんも」
柔和な微笑みを浮かべて、先程の責任者らしき人よりも少しだけ年齢が上の男性が出てくる。
とても落ち着いた声で、安定感と威厳がある印象。容貌は、ロマンスグレーとでも言えばいいのかな? とにかく、全体的に落ち着いた大人の男性と言える人。
上品な黒のスーツに身を包んでいて、背筋をピンと伸ばして立っている姿は、昔さぞかし女性に騒がれただろう様子がうかがえる。
洗練された所作なのに、どこか抜け感があって親しみやすさが同居している不思議な魅力の人だった。
九条さんに親しげに声をかけて、私にも軽く会釈をしてくださった。
「ご無沙汰しています、天野さん。すでに家族からお聞き及びかもしれませんが、婚約者の西園寺翠さんです」
「はじめまして、西園寺翠と申します」
九条さんから紹介を受けて、天野さんと呼ばれた方へ軽くお辞儀をする。
「はじめまして、天野といいます。このNoctisの代表取締役を務めさせていただいています。彼の家とは昔なじみでね、贔屓にしてもらっているんですよ」
にこやかに天野さんが挨拶を返してくださる。
なんというか、高級家具店の、しかも、代表取締役だというのに、腰が低い。
「すまないね、秀一くん。このあと、株主との食事会があって、すぐに出ないといけないんだ。要望は可能な限り通すように言っておくから、気兼ねなく過ごしてね。じゃ、翠さんも、楽しんで」
「わざわざ出向いてくださったんですか。ありがとうございます」
珍しく、九条さんが慌てた様子を見せて会釈をした。
九条さんに倣って私も会釈する。
その様子を確認して、笑顔を浮かべた天野さんは片手を上げてから、颯爽と立ち去っていった。
先程の店舗責任者の方が、入れ違いで戻ってくる。
その手には、見本らしきものを持っていた。
「九条様。新居の家具の素材についてですが……」
「ああ、はい。ありがとうございます。見本、天野さんの指示ですか?」
「はい、可能な限り融通するよう指示を受けております」
頭の中でクエスチョンマークが踊りだす。
私、本気で場違いでは?




