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盲目の蛇女は始まらない  作者: 甘味処 雨
起きはじめ
10/15

奇想曲は舞台を選べない

男の姿は、ひと目で異質だった。


外套は継ぎ接ぎだらけで、色も布もばらばらだ。


赤に青、くすんだ紫に、色褪せた黄。


どれも元は違うものだったはずなのに、無理やり縫い合わされている。


それでも、不思議と崩れてはいない。


むしろ——まとまっているようにすら見える。


袖は長さが揃っておらず、片方は指先を隠し、もう片方は肘まで露出している。


足元も同じだ。


片足は軽やかな靴。


もう片方は、擦り切れたままの裸足。


動くたびに、そこから鈴の音が鳴る。


細い紐にいくつも括りつけられた、小さな金属の粒。


規則もなく、ただ揺れに合わせて鳴る。


顔には、薄く塗られた化粧。


笑っているようにも、歪んでいるようにも見える。


口元だけが強調されていて、


その弧は、貼り付いたように崩れない。


目は——


どこを見ているのか、わからない。


焦点が合っているのかすら曖昧で、


それでも、すべてを見通しているような気配だけがあった。


その姿は滑稽で、


どこか壊れていて、


けれど目を離せない。


まるで——


笑われるために在るのではなく、


笑いそのものを纏っているかのようだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


男の動きは、どこか定まらない。


次の瞬間に何をするのか、予測がつかない。


跳ねたかと思えば、急に止まり。


止まったかと思えば、ねじれるように体をひるがえす。


足取りは軽く、けれど規則はない。


まるで思いついたままを、そのまま形にしているような——


奇想。


気まぐれ。


それでいて、不思議と崩れない。


一つひとつの動きが、どこかで繋がっている。


鈴の音が、不規則に鳴る。


チリン、チリン、と。


拍子を外しながら、それでも途切れない。


男は笑っている。


声は出さない。


ただ、口元だけで。


くるりと回る。


跳ねる。


沈む。


また、跳ねる。


水しぶきが、足元で弾ける。


その中で、ひときわ大きく踏み鳴らす。


鈴が、強く鳴る。


——それでも、誰も立ち止まらない。


男は止まらない。


見られていようと、いまいと。


ただ、そこにあるものとして。


踊る。


踊って、踊って——


なお、踊る。


その中で——


彼女は、いつの間にか口元を弧にしていた。


小さく、けれど確かに。


音もなく、ただ形だけがやわらかくほどけていく。


布に隠された目は見えない。


それでもわかる。


あの奇妙な踊りを、まっすぐに受け取っている。


笑っているのだと。


誰も足を止めない中で、


ただ一人だけが——


その意味を、見つけているように。



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