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償うのではなく進むために。part1

「―――月葉。」

思わず視線を下げていた月葉に掛けられたのは、その緊張に張りつめた空気を気にしていない飄々とした声だった。

―――セアの声だ。

(一体、何を……)

月葉は思わず自然をあげ、セアを見る。月葉の目をまっすぐに見たセアが何故か複雑な感情を抱いたような表情をするがそれは無視だ。

無視をして―――一応は真剣に語ろうとしているセアの話を聞く。

きっと、自分の事を完全に理解してくれる可能性のある唯一の人の話を聞く。

月葉とセアは似ている。

それはきっと、妖狐と吸血鬼。種族、出身国などの違いはあれど、それぞれの最強と謳われているのが関係しているのだろう。

(僕の場合は……)

月葉は内心で呟きかけた過去を心の深くに押し戻し、思考を切り替える。

自分を完全に理解してくれる可能性のある唯一の存在。

恐らくこの世界で最も近い立場にあると思われるセアの言葉を、聞くために。

「ちゃんと話せよ。その為に来たんだろ?」

その言葉はまっすぐ月葉に掛けられ、

「自分が罪を受け入れた上じゃないと、何も救えない―――救えるわけないだろ?」

まっすぐ届き、月葉の視線を……気持ちを前へと押しやった。

(そう……ですよね。)

月葉は揺らぎ、決意できなかった気持ちがはっきりするのを感じながら、

(僕が話さねば全てが停滞したままですし。)

「僕が『主殺し』を行った理由。それは―――」

話す。己のした質問が何かしくじっていたのかと不安そうだった夜歌を横目に、

「阿部明が、名無谷村(この村)を滅そうとしていたからです。」

言った。

その声に帰ってきたのは沈黙で、そして続いたのが

「え……?それは何で……ですか?」

夜歌の不安げに揺れた疑問だ。夜歌は戸惑いの感情を内に秘めた視線を黒夜に一瞬送り、けれどすぐ月葉に視線を戻してそう聞く。

その声には自分たちが何かをしたという可能性からくる躊躇や躊躇い、淀みは一切ない。

「陰陽師の仕事って、『人間と妖怪双方の中間に立ち、一方的に悪影響を与える方を罰する』……『人間()妖怪()仲介する(正す)』ことなんですよね……?けれど、私たちは何もしていませんよ!」

(そうでしょうね……。)

月葉は頭の中で話の筋を大雑把に考えながら夜歌に同意する。むしろ思い当たる節があったら困るのは月葉の方だ。

「それは晴明様が頭首をお勤めになられた頃……そして、晴明様の教えが正しく伝えられていた時代の話です。」

月葉は不安げな夜歌と、話の理不尽さだけは理解できているのだろう。不機嫌な黒夜と冷静で何考えてるかわからない長に視線をそれぞれ向け、聞く準備が出来ていることを堪忍してから

「今は……晴明様の教えが時代とともに変化してしまってからは、そうではなくなってしまったんです。」

「きちんと伝えなかったんですか?」

夜歌の問いに月葉はいえ、と否定を返し、

「陰陽師とはいえ種族的に言えば人間。同士殺しが種族を問わず珍しくないとはいえ、多種族を護るために同じ種族を罰することに抵抗が晴明様のお亡くなりになる前でも若干はあったんです。そしてそれが一層強くなった形ですね。それもあって陰陽師の目的が『陰と陽を正す』ではなく、『何の力も持たない人間を護る』と歪んでしまいました。」

「成程、つまり『元の考えを持つ人を失った』が故に教えが変わってしまった、ということですね?」

「はい。志そうとは思っても、元の方針の解釈は人によって変化していってしまいますし。」

「それが名無谷村を滅そうとするのとどう関係があんだよ。」

月葉と夜歌が比較的ほのぼのと話していると、それを遮るように不機嫌そうに口を挟んだのは黒夜だ。月葉を見る目が厳しいのは、

(退屈だったんですかね?)

月葉は少し首をかしげつつ、

「刃は斬れやすい方に滑りますよね?それと一緒ですよ。」

そう言う。月葉的には分かりやすい説明だったのだが黒夜に眉間にしわを作られたため理解されたかったと判断し、つまり、と本来するはずだった説明を再開する。

「目的が変化したのと同時に、陰陽師が滅しやすい妖怪が少なくなってきたんです。滅しやすい弱い妖怪は優先して倒していった上、人間の科学の進化で我々の住みやすい場所……闇は失われてきつつありますからね。そのため妖怪という種族が現在減少傾向にあるんです。ですから、」

「弱く、滅しやすい妖怪が集う名無谷村に標的が来た。……そういうわけかの。」

長の一番いいところをかっさらう発言を月葉は微笑で頷いて肯定する。

「成程……。そういう事ですか……。」

夜歌が嫌々、というような雰囲気で納得したように言う。きっとそれは、

(山神様が話をまとめたから……ですね。)

自分たちが崇拝し、敬う神が己たちが倒される存在であると認めた。それは多少納得のいかない事実であったとしても、それを押し込めて無理やり納得するだけの力を持った出来事だ。

月葉は内心でそう考え、次の言葉を紡ぎ、話を勧めようと―――

「ちょっと待てよ!」

するのを黒夜が遮った。

「なんでこの村なんだ?もっとほかにもあるだろう!」

「すでに滅びましたよ。この村みたいな場所はそう多くありませんでしたし、今ある大きな集落は陰陽師が束になったって敵わない種族ばかりです。」

月葉はそう説明して、

(ここからが、僕にとっての本題ですよね……。)

内心で思う。

ここまでは名無谷村が標的になった理由の説明で、ここから先は自分が『主殺し』をした理由の説明だ、と。

きちんと話せるだろうか、という不安はある。けれどもう話すことに対する躊躇いはない。そして退屈でも不機嫌でも、夜歌たちに聞く気はあって。

(後は、僕が語るだけです。)

月葉は深呼吸を一度はさんで気持ちを入れ替え、

「『名無谷村』が次の標的になるのにさほど時間は必要とされませんでした。」

始める。

己が起こした罪。その形を、内容を晒してゆく。

―――――そこにもう、恐怖はなかった。

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