第五話「憤怒の別名(ほのおのよびな)」(後編)
貫かれた片眼が痛む
とはいえ、ぼくの眼窩はあれから速やかに消毒され、眼球の代わりに花が差し込まれた
造花だ
砂で出来ていて乾いた色をして居たが、ぼくの血を吸って直ぐに紅く染まっていった
「美しい」
神父さまが、ぼくの『新しい姿』を視てそう言う
仕立てて頂いた服が、帽子が、身を包んで居た
ぼくは、痛みで何も考える事が出来て居なかった
拷問官達が、恍惚とした神父さまの様子を視て何かを訝しげに囁きあって居た
新しい姿となっても、ぼくは椅子である事には変わりは無いらしかった
神父さまは、あれからとても興奮しやすくなって居るようで、今朝も新しく『供物』が運ばれてくるにつれ、ぼくに座ったままの姿勢で、早くも鞭をぼくに向けて繰り返し振るった
せっかくの服が打たれていく中で裂けるのを視て、ぼくは涙ぐんだ
近くでは、やはり拷問官達が、訝しげに小声で会話を続けて居た
聞こえてきた話からするに、みな神父さまの正気を疑い始めて居るようだった
昂揚が頂点に達した神父さまは、立ち上がるとぼくの喉を片手で掴み、高く高く差し上げた
呼吸の阻害、意識が遠のきだす
霞む視界の中で神父さまが、昨日ぼくの眼に刺したものと同じ杭を取り出すのが視えた
どうして?
神父さま、貴方の玩具になれば、ぼくは幸せな暮らしを得られるのでは無かったんですか?
どうして?
どうして
─────殺してやる
ぼくは生まれて初めて、悦んで人を殺そうとした
こんなやつに従い続けたら、両眼だけでなく喪う事が明白に思われたからだ
自分でもどうやったか覚えて居ないが、気が付けば杭は神父さまの片眼を貫き、肉をこびり付かせながら無理矢理引き抜かれ、次に反対の眼に突き刺されて居た
ぼくの右手の甲が血だらけで、あちこち骨も折れて居る
どうやらぼくは、杭を殴って神父さまの眼に突き刺したようだった
神父さまは、笑って居た
視える筈も無いぼくへと顔を向け、「美しい」と言った
もしかすれば、ぼくは今、美しいのかも知れなかった
「この者に、もう教会を支配する能力は無い!!」
ぼくは、はあはあと息を喘がせながら教会中の人間共に向けて叫んだ
「これからは、ぼくがこの教会の神だ!!」
「『供物』共を交尾させろ!そこから産まれた子供の解体された血と肉で、初めて我々は『本当の祝宴』を始められるのだ!!」
初めは戸惑いながら、ぼくの言葉を聞いていた拷問官達も、最後の表明を聞くと納得した様子で集まって来た
『神父さま』は、まだ生きている
ぼくは彼を引き摺り倒すと、その背に座した
教会は、存続可能であるように思えた
─────
「やっぱりこれ、血なのか………」
■■は、誰も居ない教会の暗い廊下で、敷物に指で触れて居た
防音性の高い扉なのか、各部屋で何が行われて居るかまでは解らない
灯りに照らされた赤黒い指の腹を、唇で包む
「おいし………」
自然と瞼が笑みの形に下がり、僅かな鼻息が満足げに漏れ出す
視れば、血は爪の間にまで入ってしまったようだった
「帰ったら洗おうっと……」
見張りが来る前に、■■は教会を去った
満足したのか、その後は彼が教会に来る事は無かった




