第六話「"Hubrisへの諌め"」(前編)
「その可能性が、およそ6割だ」
診察室の空気は重い
まあ、私のせいだが
とはいえ苛々と患者に告げたあと、「まずかったか」と少しは感じて居た
そろそろこの総合病院を、干されるかも知れなかった
「6割って……」
「あれだけ調べて、断定も出来なかったのか!」
患者の中年男性は我慢の限界を迎えたのか、感情を顕にして私を罵ると部屋を後にした
個人的には「それが人と話す態度か」とは思ったが、ああした患者は生命が深刻に脅かされた結果として、この場所に居る
気持ちがまったく解らないでは無かった
『断定』と云う事が出来ない
『断定する』事は、ほとんどの場合、論理的で無いからだ
しかしそれを率直に伝えると、患者は大抵先程の様な感情を視せる
私のことを、『腕は立つのに損をして居る』と言った者が過去に居た
面白い視点だった
おおよそ世間の者共は私を、『断言を嫌う』と云う理由から、未熟者と断じて居たからだ
あの不愉快な患者は、私を理由に転院したそうだった
責を問われ職を失うかとも思ったが、私の処刑法は、もっと別のものが用意されて居た
「それで」
「………このクソガキな訳か」
『クソガキ』と云う言葉に、少年は眼に涙を溜めながら、その場で頭を庇う動作をした
NPOの若者が、非難の視線を向ける
非難したいのはこちらの方だった
「心臓は私の専門だが……」
「このガキ……」
「あー………………子供は、術後は親元に返されるのか?」
少年の躰を、嫌々ながら視る
まだ一桁くらいの歳なのだろうが、打撲痕の無い場所が存在し無いようにすら視えた
この段階での断定は科学的では無いが───一瞥しただけでも、『あからさまな虐待児』と云う感想しか湧かなかった
「お前らアホ共は生命を、玩具か何かとでも思って居るのか?」
正しい言い方が存在するのかも知れないが、性格上こうした事しか言えなかった
若者は怒りを隠そうともせず、「なら、どうしろって言うんですか!」と私に威圧的な態度を取った
「私は、自分の出来る最大をする」
「お前は!」
「それを!」「しないのか!!」
正論づくで人を黙らせるのは、私の悪い癖なのだと人は言う
私自身としては、正しい事を言って居るだけのつもりだった
結局、若者は何の解決案も提示せず、泣きながら帰って行った
『クソガキ』を視る
哀れな、怯えた眼をして居る
何も名案は浮かば無い
しかし、アホ共がやらないのなら、私がやるしか無かった
「おい」
話し掛けると、少年はスタンガンでも押し当てられたように跳ね起き、こっちを視た
「食うか?」
白衣のポケットからチョコを出し、差し出す
チョコは良い
登山者も緊急食に用いる程、栄養価が高い
そうでなくても、私は人より思考する為、人より糖が欠乏する人間だった
クソガキはチョコを食するのが、生まれて初めてだったらしかった
意外にも、私たちが仲良くなるまでに時間は掛からなかった




