第三話「Don't say "lazy"」(前編)
十字架を視ても、今や「売ると幾らになるのか」としか思えなくなった
思えばオルガンは良い値が付いた
それによって、また無辜なる者を救う事が出来たように思うが、この教会は更に寂しい眺めに姿を変えたし、私のオルガンを聴きに足を運んで居た者達は二度と来なくなった
近頃は、この教会を訪れる者も減った
或る面では、『救わなくてはいけない』事に追い立てられずに済み、気が楽と言えないでも無かったが、ますます孤独は我が人生に暗い影を落とし、また、金も無くなった
とにかく部屋の多いこの教会は、ただ居るだけで孤独を深めるようにすら思えた
ここ数日、ろくな物を食べれて居ない
『神父と云う職業が、筋力をろくに使わない仕事で本当に良かった』と安心する事も増えた
妙な来客だった
聴罪室を使いたいのだと云う
そんな人間は、ほとんど初めてに近かった
私は『どんな罪なのであろう』『告解の内容が犯罪であった場合、通報するべきなのだろうか』と様々な事を考えながら、壁の向こうの席に着いた
男は暗いながらもよく通る声で、自らについて語り始めた
「今年で21になるのだが、僕は過去には小説を書いていて……」
「……それは今は関係無い話か、本題に入ろう」
そう言って、男は自らについて語り始めた
話に依れば、彼は美しい男性と恋に堕ち、書く事を辞めてしまったのだという
「なるほど」と思ったが、彼が罪を感じて居る点は、私の想像とは少し違うものだった
「僕は、男を抱いてしまった」
「………ばかりか、彼の側からも好きなようにされた」
「そうして、悦んで居たんだ」
「…………穢らわしい」
「僕は、穢らわしい存在になってしまった」
そう言うと、男は何も喋らなくなった
泣いて居るのかも知れなかった
私は思案した
一般に、クリスチャンの教えとして同性愛は罪悪だ
しかし彼の行いは、『悪徳』と呼べる程のものだろうか?
また、『書く事を辞めた自分』を彼は責めて居るが、本来ならばそんな『呪い』は捨て去るべきだったのでは無いか?
彼は、自らの人生に対し『取り返しが付く段階で、軌道修正を行った』とも、解釈出来るのでは無いだろうか?
「───端的に言うならば」
「貴方は『罪を恐れるべきでは無い』と、私は思います」
「『生きる』という事の前で、果たして罪を恐れるべきでしょうか」
「…………貴方は、『生きようとした』のではありませんか?」
「罪を…………?」
壁の向こうから聞こえた男の声で、ようやく私は自分が言った事を理解した
私は、なんという事を言ってしまったのだろう
続けて言葉を重ねようとしたが、男は手短に例を言うと教会を後にしてしまった




