第二話「暴の、食」(後編)
一定の命拾いは有った
偶然にも■■はコリコリが好きだった為、彼が焼き上がったものの8割以上を食べ尽くしたのだ
また、鶏肉も思ったより脂切れがよく、ハツに至っては今回の作戦コンセプトにかなり合致して居た
一定の金額食べ進める事に成功し、私は第二の矢をつがえ、まさにそれを解き放とうと考えて居た
「「タンをお願いし──/アカセン二人前をお願いします!」」
私の注文にかぶせ、■■がアカセンの大量注文を始める
まったくの予想外だった
まず、人の注文にオーバーして喋り始める馬鹿が居た事も想定外だったが、『二人前』というものを一皿で注文するという発想は、それまでの私には無い考え方だった
(『数人前』、という注文方法が存在したのか……)
「タンを四人前でお願いしたいのですが」
店員が困った顔で、そういう量のはやっていませんねと解答した
何かしらの星辰が狂い始めて居た
比較的最低の状況だ
起きて欲しくないことばかりが、幾つも発生して居た
網の上では、いつ終わるとも解らないアカセンの加熱行為が行われて居る
当然もっと時間のかかるモツも存在するが、先刻のハツやコリコリとは、比べるのも馬鹿馬鹿しい程の時間が経過していく
この際に最も危険なのは、時間の経過で満腹中枢が機能し始めてしまう事だ
私はスライストマトを幾つも口に運びながら、もどかしい時間を過ごして居る
こうした時、ただメソメソと過ごすのは私の主義では無い
反撃計画として、密かにまとまった数量タンの注文を私は画策して居た
(………タン二人前を、後ほど三皿お願いします)
トイレに行くタイミングに偽装し、カウンターの店長に囁き伝える
この店のタンは、程良く高額だ
確実に火の通りも早いだろう
これは、私でも解るほどの自明だ
かくして、■■が半ば放置しながら焼き上げたアカセンが彼のアカセン(胃袋)へと消えていく頃に、私の手元は完全に戦の支度が整い始めて居た
薄い薄いタンを、次々に灼けた網の上へ並べていく
総てを並べ終える頃には、もう最初のタンは適度に火が通っている
この店のタンは『片面焼き』が推奨されて居る
事前に、ある程度の加工を受けて居る事もあるのだろうが………億せずに口に放る
旨い
酸味と旨味による特有の下味に対し、薬味も効いて居る
感慨に耽る間すら無く、次のタンが焼き上がっていく
最早、トングを介する事すらもどかしくなり、私は網から次々に箸でダイレクトに肉を回収しては、口に運んだ
それと同じ数だけ美味もまた口内に染み渡り、広がっていった
しかし─────
「おろか者が!!!」
それでもなお、私は怒れる民にならざるを得なかった
よりによって■■は、自分が食事を終えた事をいい事に、私の向かいで煙草を吸い始めたのだ
「───ちょっと、黙っててくんない?」
諸悪の根源で在る筈の■■は、何故か呆れたような顔でたしなめる言葉を僕に返す
非常に不愉快だった
「煙草を」
「吸うな……!!」
更なる怒りが絶える事なく溢れ出したが、■■は僕を片手の手のひらで制し、「でも」「ここに灰皿があるよね?」と言った
「───って事は、吸って良いんだよ?」
「あと……」
「キミ、これで怒るくらい今日は美味しく食べれたんだね」
駄目押しの言葉に、私は、はっとした
考えてみれば焼肉でこんなにも美味しいのは、楽しいのは、初めてだったかも知れない
どう返事すれば良いものか思案する私の顔に、■■は躊躇い無く煙草の煙を吹き掛けた
そうして揉めているうちに、タンは総て焦げた




