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第二話「暴の、食」(前編)

私は■■が嫌いだ

私の『ボウ』という、名字から取った愛称を、何度訂正してもずっと『坊』だと思い続けて居る事が気に入らない


他にも、今夜私を焼肉に誘った事も不愉快に感じて居る



先ず、一つの前提として私は焼肉が得意で無い

動物性蛋白質を食べるのが苦手だ

油物が苦手だ


また、今日に至っては仕事終わりにそのまま連れて来られた為、研究職をして居る都合から衣服も丈の長い白衣を着用して居る

おおよそ焼肉をするに際し、ここまで適性の低い人間も居ない事だろう


加えて、■■が私を焼肉に招いた理由も腹立たしかった

私が食べられない事を知りながら、この男は割り勘を要求するのだ


しかし、今日は少々事情が平時とは異なる様子だった



「今日は奢るからさ」


そう言いながらも、■■の視線は手元のスマートフォンに釘付けになって居る



「好きにしていいよ」


これはこれで腹立たしかった


私の事など、恐れるに足らないという事なのだろうか

『お前など、自分に対して何も出来る訳が無い』とでも思ったのだろうか


■■は液晶の画面から眼を離さない

事ここに至って、私は牙を剥き自らの名誉を守らねばならなかった



注文は、好きに行って構わないとの事だった


思案した

身体的な条件だけで言うならば、私はこの「(いくさ)」に於いては不利な存在だ


軍略が必要だった



確実に、炭水化物の注文は論外であると言えた


『満腹』というのは、血糖値と咀嚼回数によって決められていく

即ち、大食いを果たし■■の鼻を明かすには、低糖質かつ、多く噛まずに食べられる食材が必要だ


加えて言うならば、私は油物に弱い

また、合間合間に野菜や甘味を挟む事も肝要であると思われた

メニューを暫くの間睨み続け、私は第一弾の注文を確定した



「へぇ?」


盤面に並び尽くした皿を睥睨し、■■が僅かに興味の有るフリを視せた



「可愛いんだね………?」


「これって、油が苦手だからなの?」

手元の液晶画面に視線を戻すと、くすくすと笑う


鶏肉とハツ、コリコリをトングで網に載せながら、私は既にポーカーフェイスの下で自らの誤算に気付き始めて居た


思考停止で「低糖質=鶏肉」と決め付けて行動してしまったが、この店のチキンは脂が乗っている

皮付きなのも危険だと感じた


とはいえ、これは念入りに火を通し脂を落とす事も可能かも知れない

問題は、トングを通して伝わったコリコリの感触だった


私はモツ焼きに明るくない

簡単に、ネットで視た情報などからコリコリを選ぶ判断をした

何しろ、シマチョウ等を始めとしたメジャーなモツは油分が多過ぎる

あの時は他に選択肢が無いように思われたのだ


恐らく、コリコリは焼いてもなおゴム質の触感だ

他の肉に比べて、咀嚼回数が爆発的に増える

油分は少なそうだが、『大食』という観点からすれば完全な『不正解』に思われた



心は焦り続ける

しかしトングで裏返した感触としては、よりによってコリコリは一番最初に焼き上がるであろう事が予想された

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