第一話「色づきて 禁忌(つみ)は憂き世を ■■に染め」
『有澤 色』、と名前で僕を呼ぶ者は少ない
多くの者は僕を『先生』とか、そうした下らない名前で呼称する
一つの呪いだった
十五の時に受賞し、翌年には既に作家として活動して居た
高校こそお情けで卒業出来たが、実のところは無学だ
他に出来る事もないまま才能も枯れ果てて、成人する頃には単なる『小説を書くフリーター』になった
そのせいか、周囲も扱いに困っている様子を感じる
売り上げもほとんど無い
ファンが居ないでは無いが、それが金になって居る訳でもないのが社会というものだ
その結果が、この煙草臭い部屋なのかも知れなかった
何年ぶりだったろうか
人から下の名前で呼ばれた
何度も
何度も
先刻まで、バイト先で知り合った『■■』という少年と、アパートメントの硬くて冷たい床の上で何度も交合して居た
通常、僕は男と情交を交わすような、穢らわしい人間では無い
しかし彼を初めて視た時から、心の何処かでは『いつかこうなる』という確信が在った
或いはそれは単に、僕の願望だったのかも知れないが
彼の明るく染めた長い髪が、細く綺麗な指先が、時折視えるうなじが、華奢な中にも男性性を感じさせる肩や腰が、喉が、脚が背中が好きだった
彼の躰は、貪れば貪るほど僕の渇望を湧き上がらせた
僕は、母の乳を求めるけだものの様に、彼に顔を埋め、しがみつき、専有しようとした
実際には、砂漠を往く旅人のように、僕の渇きは彼を呑み乾す程に増していった
夜の中
僕は自分が何度果てたのか、数える事をすら出来なかったが
彼は、僕が力尽きてもなお微笑みながら座って、視降ろして居た
「───ねえ」
煙草を吸いながら、■■が背中で僕に言う
「小説、教えてよ」
そんなものに興味を持つような少年だったろうか
意図が解らなかった
「色は反対に、ボクからファッションを学ぶといいよ」
■■が振り向く
セブンスターの匂いが嫌いな僕は思わず顔を背けたが、■■は僕の顎を掴むと強引に振り向かせ、口付けた
服装も、行為の時の声も、女のようだが、手の大きさは男のそれだ
今更に自己嫌悪と倒錯的な悦びに板挟みされ、僕は躰に合わぬ煙草の香りも相まって噎せ始めた
それが面白いのか■■は僕の口腔を舌で弄び、犯し始める
数時間近く経つ頃
僕は、乱れて居た髪を、頭の後ろで一つに結ぶ■■を視ながら、起き上がる事も出来ず朦朧とした頭で「これからはもう、小説を書くのは止そう」と考えて居た




