第44話 ダントンの陰謀
けもの道をかき分け、ようやく僕が魔鉱石の原石を見つけた河原近くに辿り着いた。
ダントンはクンクンと匂いを嗅ぐような仕草をすると、「この匂いは…有望かもしれませんね。ちょっと探してみます」と言って、近くの藪の中に分け入って行った。
アリシアは、しばらく所在なげにつまらなそうな顔をしていたが、グルル~とリザードマンが喉を鳴らす音を聞きつけ、「まだいたか!」とつぶやき、剣を掴んでどこかへ行ってしまった。
河原にソーニャと二人で残されてしまった。
どうしようかとソーニャの方を見ると、彼女は強い視線で僕を見つめていた。
「……約束したよね。もし鉱脈が見つかったらどうするか…。」
「うん…わかってる……。」
ソーニャは、魔鉱石の鉱脈が見つかり鉱山開発が始まると、魔道兵器の恐怖が心に焼き付いている帝国を刺激し、帝国との戦争になることを深く憂慮している。
大した鉱脈が見つからなければ問題ないけど、万が一見つかった場合にどうするかについては、ずっと話合ってきた。
「もし鉱脈が見つかったら、それを帝国と王国に情報開示する。それで、帝国と王国を含めた三国で共同管理して、絶対に軍事利用しないことを担保する。それしかないと思うの!」
「うん…わかってる。」
真剣な顔を近づけて迫ってくるソーニャにたじたじになりながら、僕はうなずくしかできない。
ソーニャの意見には同意している。公国から生産される魔鉱石が軍事利用された場合にどんな結果になるのかは火を見るよりも明らかだ。
だけど、アリシアをどう説得するか……。正直自信がない。だから鉱脈が見つからないのが一番なんだけど……。
「カガミ様、ソチアーノ様、お手伝いいただけますか?」
急に予想しない方向から声を掛けられて驚いた。いつの間にか後ろにダントンが立っている。
「大発見です!!大鉱脈につながっている洞穴を見つけました。少し中に入ってみたのですが、奥深くまで魔鉱石の鉱脈が続いているようです。もっと奥深くに潜ってみたいのですが、命綱を付ける必要があると思いまして…。」
見つかってしまったか…。
しかもこんなにもあっさりと。僕は頭を抱えながらも、調査を手伝うことに異論はなく、ソーニャとともに、ダントンの案内で藪を分け入った。
ダントンが指し示す岩場の間には、腹ばいになれば、大人一人がようやく入れるくらいの小さな洞穴があった。小石を投げ込んでみると、カランコロンと転げ落ちる音が続き、確かに地下奥深くまでつながっているようだ。
「さっきまで潜って調査していたのですが、中には揮発した魔鉱石のガスが充満しているようです。私はもうだいぶ吸い込んでしまいました。これ以上吸い込むと危ないので、カガミ様が入っていただけないでしょうか?」
ダントンが申し訳なさそうに頭を下げる。揮発した魔鉱石のガスは人体に有害だ。僕も魔道具の複製作業をしていた時、うっかり吸い過ぎてハイになって気を失ったことがある。
暗くて狭い洞穴に入るのは気が進まないけど、断ることもできない。
僕は腰に命綱を付け、後ろ向きでそろりそろりと洞穴の中を下って行った。灯りは手に持った魔鉱石で光るカンテラしかない。
「カガミきゅん、大丈夫?」
洞穴の入口からソーニャが心配そうな顔で覗き込んでくる。
すぐに岩棚のように平たい場所に足が着いた。そうはいっても大人一人がようやく立てるくらい。その先はさらに断崖が続いている。ふと壁を照らすと、魔道具の紋様らしきものが描かれていた。
「そうか……。揮発した魔鉱石のガスが充満してるから、飽和現象で描いた紋様が揮発しないんだ…。もしかして、ここみたいに揮発した魔鉱石を充満させた場所で魔道具の封印を解けば、揮発しないから普通の人でもゆっくり書き写せるんじゃないか?」
そんなことを思いながら、また慎重に洞穴の下の方へと進んだ。
あれっ?そういえば、なんであそこに紋様があるんだ?誰が描いた?
その違和感に気づいたのと同時だった。
「キャ~ッ!!」
頭上から悲鳴が聞こえ、次いでソーニャが頭上から落ちて来た。僕が受け止めたけど、組み止めきれず一緒に斜面を滑り落ち、次の岩棚でやっと体が止まった。
「ど、どうしたの?ソーニャ?」
「わかんない…。なんか急に後ろから押されて…。」
気づくと命綱も切れてしまったようだ。お腹に結ばれたロープの先も落ちてきた。
これはまずい。助けを求めないと。
「ダントンさ~ん!!命綱が切れました。ロープを下ろしてもらえませんか?」
僕の声が洞穴をこだました時、どういうわけか上の方から笑い声が響いてきた。
「ハハッ!グハハッ!!どうです?暗くて息苦しいでしょう?帝国のスパイの死に場所としてはそこがふさわしいでしょうな~っ!」
「ダントンさん!どうしたんですか?僕たちはスパイなんかじゃないです!早く助けてください!!」
僕が上に向かって叫ぶと、ヘッと鼻で笑うような声が落ちて来た。
「さっき二人話していただろう!この鉱脈の存在を帝国にも漏らそうって!!」
「それは平和利用のためです。この鉱山で生産された魔鉱石が魔道兵器に使用されると疑われたら、帝国と戦争になってしまいます。だから魔鉱石が平和利用されることを担保するために共同管理が必要なんです!!」
しかし僕の必死の叫びはダントンの心には届かなかったようだ。
「帝国が平和利用だと?片腹痛いわ!私の兄上は帝国で虐殺されたのだぞ!モスコーを空襲した魔道兵器部隊を指揮していた兄上は、飛行魔道具から引きずり降ろされ、そのまま焼き殺されたのだ!そのせいで兄上が継承していた貴重な飛行魔道具の技術も失われてしまった!!」
「そ、それはモスコーを空襲したわけだし、自業自得なんじゃ……。」
「うるさいっ!元はと言えば帝国が仕掛けた戦争だろうが!!それに貴様、魔道具だけじゃなくて、ギルドの最重要機密である魔道兵器の技術も盗んでいるだろう?ユーキの奴を絞り上げたら、すべて吐いたぞ!その技術を帝国に漏洩して、この鉱山の魔鉱石を確保して、帝国で魔道兵器を開発するつもりだな!!そうはいかんぞ!!ここは儂のものだ!!これを喰らうがいい!!儂と魔道具ギルドの未来のために人柱となれ!!」
ダントンの叫び声が終わるか終わらないかのうちに、頭上で爆発音が響き土砂が降って来た。
その中に混じった岩の破片が僕の頭に直撃し、気絶する寸前、僕は途中の岩棚にあった紋様を思い出した。
あれは爆裂式の魔道兵器の紋様と同じだ。そうか……ダントンがあそこに描いておいたんだ。僕たちを生き埋めにするために…。




