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第42話 戦争の火種

月曜の投稿ができてなかったことに気づきました。すみません。

「このわからずやめ!!これが公国にとってどれだけ利益になることかわからんのか!!」


「わからずやはそっちよ!これがどれだけ危険なことかわからないの!?」


 テーブルを叩きながら激しく意見を闘わせるアリシアとソーニャに挟まれ、僕は静かに瞑目していた。

 

 内心でびくびくしながら。


 怒鳴り合う女子に挟まれるなんて経験は生まれて初めてだ。こんなに怖いものだとは知らなかった。ホント怖い……。


「おいっ!何を黙っているのだ!貴様の領地のことだろう!しかも貴様が言い出したことではないか!!責任もってこの女狐を黙らせろ!!」


「そうよ!昨日話したらわかってくれたじゃない!ちゃんと説明してあげて!!鉱山開発はあきらめるって!!」


 二人の矛先が僕の方へ向いてきた。上司と婚約者の板挟みに苦しみ、何を言っていいかわからず思わず下を向く。なぜこんなことになったのか後悔を覚えながら…。


 話は3か月前、僕が叙爵された直後に遡る。

 男爵に叙爵され、領地として、ワイバーン樹海一帯を貰った僕は、この日、領地視察に出かけていた。


「ピクニックみたいで楽しいね!お弁当作ってきたから、どこか眺めのいいところで食べようよ!!」


 隣を歩くソーニャは上機嫌だ。

 ソーニャは僕が叙爵されて領地を貰ったことを素直に喜んでくれている。


 だけど、僕は焦っていた。


 アリシアからは、与えられた領地の代償に毎年金貨1000枚を上納するよう求められている。


 だけど与えられた領地は手つかずの樹海。街や農地どころか領民すらいない。


 当然税収は0だ。


 このままでは破産してしまう。少しでも収入源になるものを見つけないと…。


 そう考えて、さっきから樹海の中をあちこち見ているけど、お金になりそうなものは見つからない。


 もちろん木は生えているけど、これを切り出したところで大してお金にはならない。下手したら手間賃で赤字だ。


 せめて松茸とかポルチーニとか、高く売れそうな高級食材が生えてないだろうか?


 そんなことを思いながら歩いていると、グオォ~と獣が呻くような声が聞こえた。


「えっ?なにっ?」


 隣を歩いていたソーニャが怯え、僕に縋りついてくる。

「モンスターかな…?樹海の奥にはリザードマンとかオークみたいなモンスターが住み着いてるって聞いたことあるし…。」


「えっ?リザードマンとかオークって実在するの?」


 ソーニャが驚くのも無理はない。


 本で得た知識によれば、この世界でモンスターが住み着いているのは、ごく限られた地域。

 しかも目撃されることはほとんどなく、UMA扱いされている。


 じっとしていると獣の声は徐々に遠ざかっていった。だけど、これ以上奥まで入るのは危険かもしれない。


「もう戻ろうか?」とソーニャに告げると、彼女は首を横に振った。


「え~っ!!もう少し奥まで行ってみようよ。わたしなら大丈夫だから。ほら、まだお弁当も食べてないし~!!」


 不満そうに頬を膨らませるソーニャ。


 まあ、危なくなったらすぐに引き返せばいいか。そう思って、さらに奥に進むことにした。


 けもの道が徐々に狭くなってきた。このあたりはほとんど人が入ったことがないのかもしれない。


 その時、ふと嗅いだことのある匂いを感じた。


「ねえ、なんか変な匂いしない?水の音もするし温泉でもあるのかな?」


「いや、これは温泉じゃなくて…。」


 手に持った槍で草を払いながら前に進むと、そこには小川があった。小川の流れは緩やかで赤茶色に濁っている。


 手で水をすくって口に含んだ。


「ちょ、ちょっと!こんな汚い水飲んだら、お腹こわしちゃうよ!!」


 慌てるソーニャを尻目に、今度は川岸の石を手に取り鼻を近づけ、それから舌で舐めた。


「えっ?カガミきゅん、どうしたの…?」


 完全に引いてるソーニャを尻目に、僕は確信した。


「‥‥‥間違いない。これは魔鉱石の原石だ!」


 樹海から戻った後、持ち帰った石をジャコバン商会のユーキに送って鑑定を依頼した。


 ほどなくして、この石が見つかった近くに魔鉱石の鉱脈がある可能性があるので共同で調査し、有望だったらぜひ共同開発したいと返事があった。


 これをアリシアに報告すると飛び上がらんばかりに喜んだ。


「でかした!鉱山のあがりの3割はお前にやろう!」と気前のいいことまで言いだした。


 いや、僕の領地で発見された鉱山なんですけど、なんで7割をアリシアが取っちゃうの……と言いたくなったけど、いつものドケチなアリシアだったら儲けの全部を搾取していたはず。こんなに気前がいいアリシアなんて初めて見た!!


しかし、ソーニャの反応は対照的だった。


「魔鉱石の件、やめといたほうがいいよ……。」


 ベッドの上で向かい合った彼女は、いつになく真剣で思いつめた表情をしていた。


「えっ…?どうして…?」


「魔鉱石は争いの種にしかならない。鉱山なんて見つかったら帝国との戦争の引き金になるかもしれない…。」


 ソーニャは無表情でとつとつと語った。魔道具、特に魔道兵器に対する帝国民が持つ恐怖について。


 約14年前、帝国と公国の戦争末期の頃、当時ソーニャとその家族も住んでいた帝国の首府モスコーの夜空に、空から突然魔道兵器部隊が来襲して、爆裂式の魔道具を次々と投げおろし、街を焼き尽くしたという。


 以前、モスコー市にある平和記念公園の碑文で読んだ話を思い出した。5万人が亡くなり、民家が焼きつくされて、焼け跡が広大な公園になったと聞く。あれが民家の焼け跡だとすれば、どれだけの広い地域が空襲の被害にあったのだろう。


「まだ子どもだったわたしも、ママと燃え盛る街の中を必死で逃げ回ったんだけど、逃げ遅れた人は爆発とか劫火とか、それから突如発生した熱風の竜巻に巻き込まれて次々亡くなって…。しかも、近衛部隊の隊長だったパパは、空から宮殿に襲い掛かる魔道兵器部隊から皇帝を守るために必死で戦って、最後は宮殿の屋根から空を飛ぶ魔道兵器に飛び移って敵の指揮官と一緒に真っ逆さまに燃え盛る街へ落ちていったって…。」


 ソーニャの父上であるガリバル侯爵が戦争で亡くなった話は断片的には聞いていた。


 ソーニャがトラウマでチェスの捨て駒ができなくなったことも知っている。


 だけど彼女の口からはっきりと父上の最期を聞かされたのは初めてだ。


 僕は何も言えず、黙ってソーニャの肩に手を置くしかできない。


「パパの亡骸は見つからなかった。残ったのは出陣前に手渡してくれたこの形見の短剣だけ。」


 ソーニャが差し出した手にはいつの間にか、スワロフスキー家に伝わる銀の短剣が握られていた。当主の証で、大事な約束をする時は、必ずこの短剣の前ですると聞いている。ということは今はとても大事な話をされているということか…。


「わたしだけじゃない。帝国国民も皇帝も、魔道兵器の恐怖は脳裏に焼き付いてる。だからカガミきゅん、約束して。鉱山の開発なんか止めて。もしこんな帝国に近いところで魔鉱石の鉱山を開発なんかしたら、帝国は恐怖に駆られてきっと公国に攻め込んできちゃう。」


 僕も魔道兵器の恐怖はわかっている。僕が複製した爆裂式の魔道兵器も、川の流れを変えて温泉を掘りだすくらいの破壊力があった。きっとモスコー市を焼き尽くしたというソーニャの説明も大げさなものじゃないだろう。


 鉱山から大量の魔鉱石が掘り出され、あんな兵器が大量に作られることになったら、恐怖で先制攻撃に出てもおかしくない。


 でも、魔道兵器はともかく便利な魔道具にも使えるわけだし、やっと見つけた収入源なわけだし…。


 そんな僕の葛藤を見透かしたのか、ソーニャは潤んだ目ですがるように見つめてくる。


「カガミきゅん、アリシア公への貢納金だったらわたしが頑張って用立てるから。お願い…。」


 その可憐なお願いに抗しきれず、気づけば黙ってうなずいてソーニャを抱きしめていた。


 きっと、明日からアリシアとソーニャの板挟みになるだろうなと憂鬱に思いながら…。


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