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デイズ -名も無き魂の復讐者-  作者: 竜
Season2
26/37

如月紫苑 -復讐を終える男の物語- 4話 

『誰が!!俺みたいなやつと面会したいっていうんだよ!!!ハハハハ』

そう狂った笑い声が聞こえてくる。俺は警官に案内された先へと、長い廊下を歩いていく。いくつか見える面会室。こんな悲しみと憎しみに塗れたところなんか、まさに怪物の溜まり場になりそうだ。

『ここだ』

低いトーンに芯を入れた警官の声と共に、開かれた面会室の扉。同時に覚悟を決めた俺は面会室へと一歩を踏み出した。その先には不潔な男に成り代わった吉田琢磨が地べたに座り込んでいた。

『ハハハ!!!お前か!!!元気にしてたか?』

正直、こいつの顔は見たくなかった。俺の復讐心を利用したクソ野郎だ。だが、その怒りは抑えつつ、ゆっくり彼と面を合わせる。目の前に置かれた椅子へと腰をかけて。

『お前に話したいことがある』

『あ?いいぜええええ!!!』

『お前、頭おかしくなったのか?』

『この刑務所は、狂った奴が多いからな。だが、お前の仲間の桐島きりしま 慎也しんやって奴はなかなかまともだな』

桐島 慎也・・・こいつも、怪物狩りの組織の仲間。前回の事件で、吉田琢磨の犬として裏切った野郎だ。まあ、そんなことはどうでもいい。

『今、影の怪物がまた被害者を増やし続けている。お前、何か知ってるのか?』

真面目に問いかけたはずの質問は、馬鹿げた声量を込めた大笑いを披露する。何がおかしいのか?

『お前、馬鹿だな!あの時、坂口紘が戻したのは、影の怪物だけで、心を奪われた人の後始末なんて何一つしていない』

は・・・

『仮にそうだとしても、なぜ封印してから3ヶ月たった今なんだ!!』

『それは、進化したからだろ!!最初、心を奪われた人はただの病んでるやつと変わりない。だがそれが3ヶ月経てばどうだ?それは怪物となる。人を殺しても何とも思わない怪物に!!!』

そう話す彼の笑顔は、とても狂気に満ちていた。同時にこれほど混沌を求めていたと言わんばかりのウキウキした口調。それを見ただけで、俺の右手には握り拳が出来上がった。だが、感には左右されまいとまた心を沈める。

『つまり、今回は、その後始末をしなかった残りカスが、覚醒したと?』

『そう言ってるだろ!!!』

なら、次の質問だ。

『お前は、怪物狩りの組織について何か知ってるのか?』

『お前がそうだろ!?』

『怪物狩りの組織は俺に何かを隠している。最近はそう思えてな』

俺は、そう彼に洗いざらい話した。何か新しい手がかりを得られると信じて・・・

『うん!怪物狩りの組織が何かを隠してるのは正しい。だが、何をそんなに隠しているかは知らない・・・まあ、可能性があるとしたら、本当は治療法を知ってるとか?』

『・・・やはり。それは・・・』

その先にあるはずの答えに手を伸ばそうとした次の瞬間、鼓膜を揺さぶるほどの爆撃音が刑務所内から響き渡る。数秒の沈黙から囚人の悲鳴と荒れ狂う声、そして赤く光る警報音が鳴り響いた。俺たちも席に座ってられるほどの余裕がなく、思わず立ち上がってしまう。さらに近づいてくる銃声。その銃声は急速に俺たちに迫り、気づけば奇妙な黒色の仮面を被った男が、吉田琢磨を見張っていた警官を撃ち殺す。

『よせ!!!』

俺の声は届かず、そのまま警官の胸に撃ち抜かれる。そして、吉田琢磨も・・・銃口を頭の後頭部に突きつけられた瞬間、血飛沫が囚人と一般人の境界線に敷かれたアクリル板のガラスに飛び散った。

『そんな・・・』

その黒い仮面は、影の怪物と同じ人相をした表情が刻まれていた。象形文字のようなものが顔全面に描かれ、白く光る瞳が仮面からも溢れ出している。そんな男は、俺を始末せず、その場を去っていく。

『おい!!待て!!!』

とりあえず、ここにいては何も変わらない。俺は、現場の様子を伺うために急いで廊下側へと飛び出す。さっきの爆撃音の影響か、、、頑丈な壁が粉々に粉砕された1箇所が目に入る。瓦礫の粉末が煙と化し、視界の悪い霧の向こう側から囚人たちの荒れた声が響き渡る。何が起きてる!?


*  *  *


駆けつけた先は、囚人たちの食堂だ。タトゥーの入ったガキや堅いのデカイ筋肉質な男が殴り合いを繰り広げている。そんな、相手を最も簡単に投げ倒していくのはやり、影の仮面集団。と呼ばせてもらおう。囚人たちを一撃で仕留める拳と蹴り足。その威力は相手を踞らせる勢いだ。もはや首の骨を折ってしまっている。そんな仮面集団の中に銃を手にした一人が、地面にねじ伏せた男に銃口を突き詰める。追い討ちをかけるつもりか。その光景を目の前にした俺は、体の中で何かざわめいていく。同時に身軽に感じる脚の筋肉。まるで、無重力になったような感覚だ。俺はその感覚に頼るように、一歩を踏み出した。風を斬るような衝撃波を一直線に描きながら、俺は銃口を向ける仮面の一人に体当たりを仕掛けた。その反動で、相手は壁際まで身を投げ飛ばされる。

『お前ら、何もんだ?』

そう聞くも、答える気になれないのか、攻撃姿勢に入った3人は、俺の攻撃を今か今かと見据える。だがセンターにいる男が手を横に伸ばすと、後方の二人はその場を後にした。

『答えるつもりないなら、こちらからしゃべらせるまでだ』

大事な時に限って、刀は優花のとこに置いてきた。だが、久しぶりに拳のぶつけ合いも悪くない。そう身構える。


*  *  *

先に攻撃を仕掛けるのは、後方の2人を従えた仮面の人物。恐らく、リーダー的存在なのだろう。俺は、真っ直ぐに攻撃を仕掛ける男の拳をかわし、伸ばした腕の骨を折る作戦に入る。だが、伸ばした腕は、そのまま俺の顔面に差し迫る。対処の追いつけない俺は、意識を吹き飛ばす攻撃を喰らうことに。脳震盪に近い感覚。隙を突かれた俺はみぞおち、関節への打撃を繰り返し、受ける。なんだ?この瞬発力ある動き。只者じゃねえ!!!その時に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

『紫苑さん!!!』

駆け寄る別の影に、目の前の仮面男は攻撃を俺から迫り来る人物へと切り替える。手に何か持っているか、棒の振りかぶる音に近い何かが何度も何度も聞こえてくる。しかし、なかなかの超人なのか、俺に対する救いは仮面男の攻撃で殴られる音へと変わる。

『くそ!!もうここにはいない!!』

そう仲間の声を聞いた途端、目の前の仮面はその場から走っていく影が、朧げながら見える。くそ!!神経よ!!保て!!!また病院送りになるのはごめんだ!!そう脳震盪からの回復を試みる。何とか気合いで意識を取り戻した俺は、助っ人の正体をゆっくりした視線の動きで追っていく。そこには、相手の攻撃から立ち上がろうとする桐島 慎也の姿が。何で戦ってたかと思えば、警官から盗んだ警棒だった。

『桐島!!』

『お久しぶりですね!!会えて何よりです』

仮面の男の攻撃がなかなか強烈なのか、狼狽えながらもゆっくり起き上がっていく様が確認できる。


*  *  *


『ねえねえ・・・優花お姉ちゃん・・・』

あの少女は申し訳そうな表情と共に、扉の隙間から顔を覗かせる。様子を伺っている彼女の気持ちに応えるように、優しく声をかけた。

『なに!入っておいで!!』

おいで!おいで!!そんなことを手招くジェスチャーで香穂ちゃんを私の膝下に座らせる。私の膝下に座る彼女の頭はちょうどいい高さに位置し、私は少女の頭を優しく撫でる。大丈夫・・・大丈夫と。

『あの・・・私・・・怪物を紫苑兄さんと一緒に倒したい』

思わず、私の手元は一瞬動きを停止した。私の記憶で起きたフラッシュバックが、トラウマを押し付けてくるのだから。

『それはダメ!』

その経験が・・・紘くんが・・・そう思えば思うほど、少女を膝下から下ろし、真正面を向かせる。彼女の両肩に掴みかかるように。

『影の怪物は・・・香穂ちゃんが勝てるような相手じゃない。紫苑兄さんみたいな経験者でも、苦労してるの!!』

『・・・でも・・・私が勝てないって何で言い切れるの?』

ためらいの沈黙はあったものも、香穂ちゃんは俯いた視線から私の瞳と真っ直ぐ向き合う。

『私の経験があっての話よ。大の大人でも、勝てない相手にあなたは挑もうとしてるのよ!!!』

『挑もうとして何が悪いの!!!』

私は必死に少女を遠ざけるべく声量を上げ続けた結果、少女は、反撃するように声量を上げた。だが、香穂ちゃんの一言に、止めようとする私はなぜかそれ以上、言い返すことができなかった。

『この子がそうしたいって言ってるんだから、させたら?』

気づけば、ドアの隙間から顔を覗かせる母の姿が目に映る。

『好きにさせるの!?これは命に・・・』

『どうせ他人の子よ。自分の言ったことには責任を持つべきでしょ』

『いや・・・でも・・・』

母親には、いつも圧で圧倒させられる。気づけば、少女の手首を掴んだ母親の手が下の階へと誘導させている。

『母さん!!その子をどうするつもりなの?』

そう立ち上がった私の姿が視界に映ったのか、母親はキョトンとした表情でこちらを見てくる。

『家にいられちゃ、勉強の迷惑でしょ!だから外に連れてくのよ!!』

『だから外ってどこに!?』


*  *  *


カタン・・・コトン・・・カタン・・・コトン。そんなリズムで、竹の天秤は、水量の重さにそのまま押されるように、左右へと傾く竹の天秤。周りは緑鮮やかな木々が私たちを囲み、私たちの前には何枚も並ぶ的が。そう、私たちは、弓道の家系である母方の祖母の家へと訪れていた。相変わらず、切れ長な目つきとまとまった髪型、そして凛とした祖母の横顔がとてつもないオーラを見せつける。そして加わる静寂な環境が更なる緊張感を物語る。そんな祖母を前に、香穂ちゃんが不安と覚悟がぶつかり合う様を私はまじまじと見届けている。

『あらかた事情はわかりました。しかし、決して弓道は数日で成長するようなもんじゃありませんよ』

『はい・・・』

少女である香穂ちゃんの覚悟をしかとその目で焼きつけたのか、彼女は正座の姿勢から立ち上がり、弓を彼女の元へと持ってくる。

『それを手に・・・最初は引っ張る練習からです』

私は母に何度も勉強するよう釘を刺されるが、少女のことを気にせずなんてやってられない。


『あなたもは、あれぐらい図太かったのよ。歌手になりたいからって・・・』

『それとこれとは違うでしょ』

『なら、考え方を変えよう。彼女が怪物と遭遇してしまった時、戦う力を持ってる方と持っていない方、どちらが生存する確率は高い?』

『それは・・・』


私は母の考えが少し分かる気がする。同時に香穂ちゃんが自分の弱さと戦う姿がとても凛々しく見えたのだ。




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