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デイズ -名も無き魂の復讐者-  作者: 竜
Season2
25/37

如月紫苑 -復讐を終える男の物語- 3話

『それにしても久しぶりだな』

優しく差し伸べてくれるその手を頼りに、俺はゆっくり地面につけていた尻を上げて、起き上がる。

『どうしてここに?』

その問いに、少し曇った表情を見せる旧友、北村 勝司は俺の耳元へと顔を寄せる。

『この頃、影の怪物による被害者が増えてな』

その一言で、俺の前に起きていることは夢でないと確信できた。それは、少しの自信にもなった。

『やっぱりか・・・』

『やっぱりって・・・まさか紫苑も?』

『ああ、だから島谷さんのとこで話をつけてきた』

『そうか・・・』


『うっ・・・』


後ろで蠢く影に感づいた俺と勝司は、すぐに攻撃態勢の姿勢に入った。さっき、俺たちを死なせようとした運転手だ。運転席の窓から這いつくばって現れるその姿はまるで、地獄から這い上がってくる様をみているようだ。


『お前たちさえ・・・お前たちさえいなければ・・・』


乗る前は、穏やかなおじいさんと思いきや、頬にかけて描かれる血の筋と共に、見せる表情は人相の悪い悪人に見えてしまった。そして、あの黄色い瞳。間違いない。そんな彼の光景を前にした勝司は俺の肩を横切っていく。何をするのかと思えば、刀を握る柄の部分を、地面に這いつくばる彼に目掛けて、垂直に撃ち落とす。


『おい!!!』


何とか、止めようとしたものも、うなじを直撃した柄の部分で俺は抗うことをやめた。


『心配しなくても、気絶させただけだよ』


その一言で、だいぶ安心したのか、安堵を漏らす息をつく。よっぽど、彼のする行動にビビっていたみたいだが、彼はあの時と変わっていない。その面影にだいぶ俺の心は救われていた。


『ねえ!!僕のことも忘れないでくださいよ!!!』


どこか細く、覇気のない声が聞こえる先には、左右にフラフラ揺れる瑛太が歩み寄ってきていた。さっきの衝撃で眼鏡は斜めに歪み、ジェットコースターに乗った後のようなクシャクシャな髪に成り代わっていた。


『忘れてねえよ!!』


しっかり、瑛太のことも気にしていたことを言葉として示した。その後は、タクシー運転手を運ぶべく、勝司と共に車体から引っ張り出した。


*  *  *


結局、振り出しに戻るか・・・やって来たのは、香穂という少女が入院する病院だった。一番近かったのが、この病院ということもある。例の運転手は、救急車で運んできた医療スタッフによりそのまま手術室へと連れて行かれた。


『今日は助かった。恩に着る』

感謝の意は、事態が落ち着いた今ここで伝えることにした。その時の勝司は、少し照れくさそうに、ニヤついている。

『なあーに!今までやっていたことを、やっただけだ』

『今までやっていたこと・・・か』

なぜか、その言葉が心に響いたのか、何となく口にして繰り返してしまった。過去の記憶を呼び覚すだけで、ボーッとしてた意識は、不穏な何かを感じ取ると、すぐその先へと目を向けた。なんだ・・・このよどんだような空気。

『どうした?』

『いや、なんか嫌な予感がする』

そう親友に告げた後、俺は1歩1歩を早送りで繰り返していく。その忌まわしい何かは、確かこのエレベータに乗ったはず。その感覚に頼るようにエレベータの画面表示を見ると、1階から2階へと数字が変わっていく。やっぱり、今さっき、誰かがエレベータに乗り込んだんだ。なぜかはわからないが、不穏な影に恐怖まで感じていく俺は、エレベータの隣に位置する非常階段へと駆け上がっていく。

『紫苑!!!』

親友が呼ぶも、もうその声は届かない。俺は急いで、少女のいる病室、4階へと駆け上っていく。


*  *  *


バン!!!

階段から廊下へと繋がる扉を吹き飛ばす勢いで開けると、周囲の視線は俺に集中。でも、今はそんなこと、どうでもいい。急いで、少女に忍び寄る影の正体を突き止める。廊下には、誰かが通った残像。その残像は決して良いものではない。そう、俺の勘が語りかける。その時!


きゃああああああああああああ!!!!!


*  *  *


『香穂!!!!』

勢いよく病室の引き戸を開けた先には、ジャンパーもズボンも全て黒で覆われた一人の男。俺の気配に素早く振り向くが、長い前髪で目元は隠れているため、どんな顔立ちかは把握できない。

『うわああああああ!!!!』

特に動きにキレのないナイフの振り下ろしは、最も簡単に躱し、みぞおちを狙う。予定通り、目に見えない拳の瞬発で、男はそのまま地面に身を打ち付ける。そのまま眠ったように動かない男に、反撃の様子はない。そのことを確認した俺は真っ先に、香穂の安否を確認する。

『大丈夫か?怪我は?』

彼女は恐怖のあまり、布団を足元から鼻まで抑えるだけで、語りかけてくるのはウルウル震える瞳だけだった。

『だい・・・だいじょ・・・大丈夫』

『・・・そうか、よかった』


今度は、廊下から近づいてくる足音がカッカッと言うリズムで、迫ってくる。この頃、不意打ちが多いせいで警戒心が高い。が、振り向いた先は、娘を心配してやって来た男性医師の姿だった。


額に流れる汗の筋に、大きく見開いた目。彼は俺の腕を"これでもか"と言う勢いで掴みかかり、顔を引き寄せる。

『紫苑さん・・・今すぐ娘を連れて逃げてください』

『はい?』

『時間がありません!!いいから、急いで!!!』

腕を掴む握力はやがて皮膚へとめり込む勢いで、指に力が込められる。

『あと!!!絶対、怪物狩りの組織には頼らないでください!!!あなただけが頼りです!!』』

さらに、男性医師は俺の右手に刀を握らせようと、俺の拳は引き剥がされる。

『な、なんで!?』


理由を聞こうとするも、迫り来る次の足音に危険を察知した男性医師は、俺の胸を突き飛ばす。その行動は、俺に窓から飛び降りろと示唆していた。

『はあ!?ここ4階だぞ!!!』

でも、今は彼を信じるしかない。布団で蹲った少女を左手に抱えた俺は、窓の外へと身を投げる。


『きゃあああああ!!!!』


なんとか、スピードを落とすべく、4階から1階へ伝う水道管のホースにコアラ状態で掴みかかる。摩擦で手元は熱く悲鳴をあげる。下っていくと同時に、俺の手の皮膚は剥がれる勢いで、激痛が走っていく。その痛みは悲鳴を超えたのか、手がホースから離れ、身は後ろへと大きく打ちつける。


鈍い音と砕けたような音が入り混じる・・・

『痛ってええええ・・・あの医師、本気かよ』

最初に来たのは、医師の無茶振りに対する感情だった。次に来るのは、布団の中でうずくまる少女への気遣い。

『おい!!香穂!!大丈夫か?』

俺の声にコクコクと頷く頭が見えることから、無事なのだろう。俺は少女をそのまま、安全なところまで連れていくことにした。


*  *  *


安全なとこ・・・どこだ?考えろ・・・あいつ(医師)は怪物狩りの組織には頼るなと言っていた。なら、彼らが行かないような場所・・・


*  *  *


ピンポーン。鳴り響くのは一軒家。師匠の家とは違い、洋風なハウスと言える。白色と肌色の2色が奏でる四角い家。そこから母親らしき女性がインターホンから声を出す。

『すいません。岡本優花の知り合いの如月紫苑と申します。少しお話をさせてもらえませんか?』

『え・・・』

明らかに疑ったような声が漏れている。そういえば、岡本家の母親って厳しい人だと、坂口紘から聞いたことがあるような・・・少し選択肢を見誤ったことを後悔しつつ、相手がどう出るか待機する。すると、インターホンの声はプツリと消えた。今の反応で、俺の中で逃げる場所の選択肢は消えた。そう思った瞬間、玄関の扉が開くと同時に、黄色い光が俺のとこまで差し込んでくる。そこに映る一人の女性の影。その姿を見たときに、一瞬であの時の記憶が戻ってきた。彼女と最後に会ったのはいつ以来だろう。

『如月紫苑・・・だよね?』

『優花か、久しぶりだな』

『久しぶり!!!』

優花と会った最後の記憶、それは彼女が愛していた坂口紘を殺そうとしたこと・・・結果的には、殺さなかったが、後味は良いものではなかった。それにもかかわらず、満面の笑みで俺たちに歩み寄ってくる。

『どうしたの!?その掌!!』

途中で手当てしたガーゼで剥けた皮膚は覆っていたものも、一瞬で目に付くほど、手のひらは赤く染まっていた。

『これは大丈夫だ!』

『大丈夫じゃないでしょ!!中にお入り!!そこのあなたも!!!』

そう、布団で顔を覆う少女を優しく包み込むような手で、彼女を家の中へと誘導する。


*  *  *


優花の母親は噂通り、厳しい人だった。徹底したルールづくりに、若干、香穂も肩身が狭い思いをしていた。その後も俺達を泊まらせることに、ブツブツと文句を言っていた。選択肢はミスったと思いつつ、あの人の存在は無視することにした。

『母はああ見えて当たり強いけど、本当は優しい人なの。だから温かい目で見てあげて』

『ああ・・・』

『風呂出たよ!』

そう、風呂場から髪がビショビショに塗れた香穂が立っていた。

『あ!!こらこら!まだ髪、濡れてるじゃない!!ちゃんと乾かさないと!!』

そう、リビングのソファから立ち上がった優花は香穂を押し戻すように、洗面所へと戻っていった。


*  *  *

『今日は大変だったみたいね』

『うん・・・』

『明日はゆっくり休もうね。あ!せっかくだし、明日、遊ぼうか!!』

『うん!!ありがとう!お姉ちゃん』


そんな会話が微かにリビングから聞こえてくる。母親の方はもう自分の部屋で寝ているから、かなり静かな空間へと変化していた。そんな空間から静かな足音で歩み寄る優花が、本題の話に興味ありげな表情を見せていた。


『で・・・どうして私のところに?』

『・・・実は、影の怪物による被害者が最近、増え始めた』


その時の驚いた様子は、絵に描いたように的中の反応を見せた。あまりのショックに両手で口を押さえる仕草。その後も具体的な説明をした。なぜ、少女と一緒に逃げることになったのか・・・そして医師に言われたことも・・・


『それにしても何で、怪物狩りの組織まで頼るなって・・・どういうこと?』

『それは・・・心を奪われた被害者は始末する以外ないから、、、娘を守るためだろ・・・』

『・・・でも、あなたは信じた。どうして?』

『・・・』


優花の言葉には、これと言った答えが見つからなかった。もしかして・・・怪物狩りの組織は今回の件について何か知っているのか!?いや、脳内を巡らせても、可能性のあるピースは浮かんでこなかった。


『あいつなら・・・今回の件について何か知ってるかもな』


優花は、"あいつ"という人物に心当たりがあったようだ。


『吉田琢磨に・・・』




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