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第7話:4歳児の村内探索

第7話:4歳児の村内探索


村の中央通り。土埃の舞う未舗装の道、行き交う屈強な農夫や木こりたち。立ち並ぶ粗末な石造りの家々と、食堂の軒先から風に乗って届く香ばしい焼きパンの匂い。 初夏の強い日差しが、むき出しの土壁を白っぽく照りつけていた。


四歳になり、ようやく一人で家の敷地を出て村の中を歩く許可が出た俺は、義理の姉である九歳のハピネスに手を引かれ、生まれて初めて自分の足で村の目抜き通りを踏みしめていた。 これまでは母セフィルスや父アルトの背中におぶられていただけだった。地面からわずか九十センチメートルの視界。 そこから見上げる周囲の景色は、想像していたよりも遥かに暴力的で、生々しかった。


「ほらアルスちゃん、こっちよ! 転ばないようにちゃんとついてきてね!」


ハピネスが栗色の三つ編みを跳ねさせながら、ぐいぐいと俺の手を引いて進んでいく。 だが、俺の足は数歩進むごとにピタリと止まりそうになっていた。


(う、うわぁ……みんな体格デカすぎだろ……!)


すれ違う村人たちを見上げるたび、喉の奥が引きつるように鳴る。 農夫の腕の太さは、俺の胴体ほどもある丸太のようだ。肩に巨大な切り出し丸太を担いだ木こりに至っては、身長が優に二メートル近くあり、一歩踏み出すたびにドスドスと石混じりの地面が震えている。 前世の感覚で言えば、プロレスラーのヘビー級軍団が闊歩する路地に、無防備な幼稚園児が一匹放り込まれたようなものだ。


(ヒエッ……! 足元見て歩いてくれよ!? 踏み潰されたら文字通りミンチになって即死じゃん……! 前世の満員電車より百倍プレッシャーがエグい……!)


俺は恐怖のあまり、ハピネスの麻のスカートの裾をぎゅっと両手で掴み直した。 前世の知識や物書きとしての思考がいくら大人びていようと、眼前に迫る圧倒的な質量の暴力の前には、四歳児の防衛本能が剥き出しになる。膝が小刻みに笑い、呼吸が浅くなる。


「あーちゃん、どうしたの? 足痛い?」 「……ううん。おっきいひと、いっぱい」 「ふふっ、みんな優しいから大丈夫よ! あ、いたいた! おーい、ガルム! リーン!」


ハピネスが通りの先へ向かって、大きく手を振った。 村唯一の日用品商店の軒下。日陰に置かれた木箱の上に腰掛け、乾燥果物の袋を抱えた小柄な少年と、その隣で鍛冶用の小さな金槌をくるくると器用に回している少女の姿があった。 いずれも七歳くらい。俺より三つ年上だ。


「遅ぇぞハピネス。……ん? そいつが噂の弟か?」


商人見習いのガルムが、目ざとく俺の全身を観察するように細い目を向けた。着ている服の麻の質や、身につけている小物を無意識に値踏みするような手慣れた視線。 その隣で、ドワーフの血を引く鍛冶屋の娘リーンが、日に焼けた腕を組んで豪快に笑った。


「へぇ、アルトのおじさんのとこの坊主か! ちっせぇな! 風が吹いたら裏山まで転がっていきそうだぞ!」 「リーン、失礼なこと言わないで! アルスちゃんはね、世界一賢くて可愛いのよ!」


ハピネスが仁王立ちになり、威嚇するように胸を張る。 七歳と九歳の子供たち。 だが、そのやり取りを観察していた俺の頭の中で、恐怖で強張っていた神経がふっと緩み、前世の作家脳がカチリと音を立てて作動した。


(……なるほど。あいつが商店の息子のガルムで、あっちのガタイのいい女の子が鍛冶屋の娘のリーンか)


商人の情報網と目利き、鍛冶屋の加工技術と腕力、そして手芸とボス気質を兼ね備えたハピネス。 この寒村において、これほど実務的な才能が集約された子供のグループが他にあるだろうか。


(これは……将来のカルテット商会のコアメンバーとして、絶対に仲良くなっておくべき人材だ。四歳児のコミュ力を全開にして、ここで確固たるポジションを築いてやる……!)


俺はハピネスの影から一歩前へ踏み出し、前世で培った「愛想の良い後輩ムーブ」を意識しながら、ペコリと頭を下げた。


「アルスです。ふたりとも、よろしくね」 「うおっ、ちゃんと挨拶できるのか。アルトのおじさんに似て真面目そうだな」


ガルムが面白そうに眉を上げ、懐から干しアンズの粒を取り出して俺の手のひらに握らせてくれた。


「ほら、挨拶の手土産だ。村の中央通りを歩くなら、俺たちについてくるといい。危ねえ荷馬車の通り道とか教えてやるよ」 「ありがと、ガルム兄ちゃん!」 「に、兄ちゃん……? へへっ、現金なやつだな」


ガルムが照れくさそうに鼻の下を擦り、リーンも「よし、気に入った! 苛める奴がいたら私の金槌で叩き潰してやるからな!」と力強く胸を叩いた。


初対面の難関を突破し、悪ガキたちとの間に確かな同盟関係が結ばれた瞬間だった。


「おや、アルトさんのところのアルス坊主じゃないかい!」


ふいに頭上から野太い声が降り注ぎ、俺はビクッと肩を跳ねさせた。 見上げると、先ほど俺が怯えていた丸太のような腕を持つ農夫の男が、野菜の籠を抱えてしゃがみ込んでいた。


「ハピネスちゃんに連れられて、お散歩かい? ほら、これ持って行きな。甘く熟れた野イチゴだよ」


大きな節くれだった手から差し出されたのは、木の葉に包まれた真っ赤に熟した野イチゴの小包み。 続いて、隣の乾物屋の婆さんも皺だらけの顔をほころばせて店先から顔を出した。


「まあまあ、可愛いねぇ。お父ちゃんそっくりの澄んだ目をしてる。これ、乾燥リンゴのおやつだよ」


次々と差し出される果物や木の実。 見上げる大人たちの顔には、威圧感など微塵もなく、村の新しい命を慈しむような温かな笑みだけが浮かんでいた。


(……なんだ。怖がる必要なんて、最初からなかったんだな)


張り詰めていた肩の力が、すうっと抜けていく。 手の中に収まった果物の甘酸っぱい匂いと、初夏の陽だまりの温かさ。 俺はまだ少し強張る頬を一生懸命に緩め、大人たちを見上げて満面の笑みを作った。


「ありがとう、おじちゃん! おばあちゃん!」


胸いっぱいに広がる安堵とともに、ぎゅっと果物の包みを抱きしめる。 大人たちの温かい歓声と、隣で「アルス、貰いすぎだろ!」と笑うガルムたちの声に包まれながら、俺の頬は自然と緩みきっていた。


第7話 了


村内探索は済ませたので、次は読者様の指先が「いいね♡」ボタンまで探索してくれることを期待しています。「お気に入り登録」もぜひ。


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