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天才魔法具師は、スパダリに保護される  作者: 輝久実


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世界を変える冷たい箱

「やっぱり、美味しい食材は一番いい状態で保存しなきゃダメよね!」


オムライスとカレーの感動が冷めやらぬ翌日、ルチアは再び工房にこもっていた。


今回彼女が作ろうとしているのは、前世の家庭に必ずあった便利家電――『冷蔵庫』である。


これまでのこの世界では、食材の保存といえば「氷の魔石」で冷やした木箱に入れるか、塩漬けにするのが一般的だった。しかしそれだと、冷えすぎて食材が凍って傷んだり、逆に魔力が切れて腐らせてしまうという欠点があった。


「アルヴィン様のお抱えシェフのみんなにも、もっと楽をしてほしいし……よし、作っちゃおう!」


ルチアはミスリル製の作業台に向かい、持ち前のチート能力を発揮し始めた。


先日アルヴィンを驚愕させた「保冷皿」の熱操作技術をさらに応用し、今度は『一定の空間の温度を、常に摂氏3度とマイナス18度に分けて固定する回路』を、木製の大きなチェストの中に組み込んでいく。


「あとは、ドアを開けた時だけ中がパッと明るくなるように、光魔術の回路も連動させて……うん、完璧!」


作業を始めてわずか数時間。ルチアの手によって、世界初の『魔導冷蔵庫(冷凍室付き)』が爆誕した。


「ルチア、お邪魔するよ。……おや、また何か新しいものを作ったのかい?」


タイミングよく、差し入れのハーブティーを手にしたアルヴィンが工房に入ってきた。


ルチアは嬉しそうに、完成したばかりの四角い大きな箱をポンポンと叩いて見せる。


「アルヴィン様、見てください! これ、中に入れた食材が絶対に腐らないし、凍りもしない『魔導冷蔵庫』です! こっちの上の段は冷やす用で、下の段はカチコチに凍らせて長期保存する用なんです!」


「……ほう?」


アルヴィンが興味深そうにアメジストの瞳を細め、冷蔵庫の扉を開けた。


その瞬間、中がふんわりと魔法の光で照らされ、ひんやりとした心地よい冷気が溢れ出す。アルヴィンが中に手を差し込み、内壁に刻まれた魔術回路を確認したその時――。


「失礼いたします、アルヴィン様! 今月の領地予算の件で……って、ひゃあ!?」


書類を抱えて入ってきた公爵家の経済顧問(兼、優秀な魔導技師)の青年が、その光景を見て声を引っくり返した。彼はアルヴィンの後ろからルチアの発明品を凝視し、ガタガタと震え出した。


「あ、アルヴィン様……これ、何ですか!? 空間を完全に遮断し、異なる二つの温度帯を『魔力の消費を最小限に抑えながら永久に維持する』なんて……! こ、こんなもの、国中の流通ギルドや商船団が全財産を叩いてでも欲しがりますよ!! 世界の経済がひっくり返ります!!」


「ええっ!? ただの冷蔵庫ですよ!? 余ったカレーを次の日まで美味しく保存するための……!」


ルチアが慌てて手を振るが、経済顧問は


「カレーのために世紀の大発明をしないでください!!」


と頭を抱えて叫んでいる。


しかし、当のスパダリ公爵は至って冷静だった。


アルヴィンは経済顧問の方を振り返ると、その優しい微笑みのまま、ゾッとするほど冷徹なオーラを放った。


「静かにしろ。ルチアが驚いているだろう」


「ひ、ひえっ……!」


「この魔法具の存在は国家最高機密だ。もちろん、我が公爵家の独占とする。もし情報が外部に漏れたら……君の首が文字通り飛ぶと思え。いいね?」


「は、配慮いたしますっ……!!」


経済顧問は直立不動で敬礼すると、脱兎の如く部屋から逃げ去っていった。


「もう、アルヴィン様、また脅かして……」


ルチアが頬を膨らませると、アルヴィンはすぐにいつもの甘い表情に戻り、ルチアの細い腰を引き寄せて自分の胸に閉じ込めた。


「脅かしてなどいないさ、事実を言ったまでだよ。本当に君という子は……目を離すとすぐに世界を揺るがす至宝を作り出してしまう。……ねえ、ルチア」


アルヴィンはルチアの顎をそっと指先で持ち上げ、視線を強制的に絡ませる。


至近距離で見つめる彼のアメジストの瞳には、狂おしいほどの独占欲が渦巻いていた。


「私は君を、この邸の奥深くに隠してしまいたくて仕方がないんだ。君のその可愛い笑顔も、天才的なひらめきも、すべて私だけのものにしたい。……下町に帰りたいなんて、もう絶対に言わせないからね?」


「あ……ぅ……」


大人の色気と包容力、そしてちょっぴり黒い執着心に満ちた言葉に、ルチアの心臓はドラムのように跳ね上がる。


驚かせたご褒美として、アルヴィンはルチアの額に、そして名残惜しそうにその柔らかい唇の端に、ちゅっと甘いキスを落とした。


「さあ、この『れいぞうこ』のおかげで、これからはいつでも冷たいお菓子や美味しい料理が食べられるね。今夜は君の膝の上で、冷えた果物でも食べさせてもらおうか」


「ええっ!? 私がアルヴィン様に『あーん』するんですか!?」


「当然、だろう?」


悪戯っぽく微笑むスパダリ公爵に全面降伏し、ルチアは今日も今日とて、甘すぎる檻の中から抜け出せなくなるのだった。

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