未知の料理と「あーん」の味
アルヴィンのベッドで極上の添い寝(お仕置き)を堪能させられた翌日。
すっかり元気が回復したルチアは、公爵邸の広大な厨房にいた。
「ルチア様、これがご指定の『スパイス』と『お米』にございます!」
目の前で敬礼するのは、公爵邸の総料理長をはじめとする一流シェフたち。アルヴィンから「ルチアの食べたいものを完璧に再現せよ」と厳命された彼らの目は、まるで決戦に挑む騎士のように爛々と輝いている。
「あ、ありがとうございます……! ええと、まずは『カレーライス』から作りますね」
ルチアは前世の記憶を頼りに、異世界の食材をパズルのように組み合わせていく。
数種類のスパイスを調合し、じっくりと飴色になるまで炒めた玉ねぎと、柔らかい高級魔獣の肉を煮込んでいく。厨房に、これまでこの世界には存在しなかった、食欲を猛烈にそそる芳醇で刺激的な香りが立ち込めると、シェフたちが
「おお……!」
「なんという魅惑的な香りだ……!」
とざわめき立った。
「よし、カレーを煮込んでいる間に、次は『オムライス』です!」
ルチアは手際よくチキンライス(風のご飯)を炒め、卵を贅沢に3個使って、フライパンの上でトントンと綺麗なラグビーボール型のオムレツを作っていく。それをチキンライスの上にそっと乗せ、ナイフでスーッと切れ目を入れると――。
ぱか、と、とろとろの半熟卵がライスを包み込んだ。
「「「な、何という神技……!!」」」
シェフたちが一斉に崩れ落ち、拍手喝采が巻き起こる。ルチアにとっては馴染み深い「オムライスの開花」だが、宮廷料理しか知らない彼らにとっては、もはや魔法に等しい調理技術だった。
「……ふふ、厨房から素晴らしい香りがすると思ったら、やはり君が主役だったか」
そこへ、公務を終えたアルヴィンがやってきた。
上着を脱ぎ、シャツの袖を少し捲り上げた姿が、大人の色気たっぷりでずるい。アルヴィンはルチアの腰に自然な動作で手を回すと、出来上がった二つの料理を覗き込んだ。
「これが『カレー』と『オムライス』かい? 見たこともない料理だが、香りを嗅いだだけで胃袋が掴まれそうだ」
「そうでしょう! ぜひ食堂で食べましょう、アルヴィン様!」
嬉しそうに微笑むルチアを愛おしそうに見つめ、アルヴィンは
「いや、ここで食べよう。待ちきれないからね」
と、極上のスパダリの笑みを浮かべた。
アルヴィンはルチアを近くの椅子に座らせると、自分はすぐ隣に腰掛け、まずはオムライスの皿を引き寄せた。スプーンでとろとろの卵とライスをすくい――それをそのまま、ルチアの唇へと差し出す。
「はい、ルチア。まずは頑張って作った君から『あーん』だ」
「ひゃっ!? い、いえ、これはアルヴィン様のために作ったので、まずはアルヴィン様が……!」
「私が君に食べさせたいんだ。……それとも、私のスプーンからは食べられないかい?」
アメジストの瞳が、ちょっぴり寂しそうな(確信犯の)光を帯びる。これに拒否権などあろうはずがない。
ルチアは真っ赤になりながら、小さな口を開けた。
「……あ、ん」
ぱくり、と口に含む。
お抱えシェフが用意した最高級のバターと卵、そしてルチアの技術が合わさり、前世の記憶を遥かに超える極上のオムライスが口内でとろけた。
「ふぁ……美味しい……!」
「それは良かった。次は私の番だね」
アルヴィンはルチアが使ったスプーンをそのまま使い(※当然のように間接キスである)、オムライスを口に運んだ。
その瞬間、アルヴィンの目が見開かれる。
「……素晴らしいな。卵の柔らかさと、この赤いソースの酸味と甘み、ライスの旨味が完璧に調和している。こんな贅沢な料理、王宮の晩餐会でも出たことがない。君は魔法具だけでなく、料理の天才でもあるのか」
「えへへ、お口に合ってよかったです!」
「次は、この『カレー』というものをいただこうか。……うん? 辛い、が……美味い。奥深いコクがあって、スプーンが止まらなくなるね。これは我が国の『行軍用携帯食』として採用すれば、兵士の士気が跳ね上がるぞ。……いや、他国には絶対に教えないがね。これは私と君だけの秘密だ」
アルヴィンはそう言うと、今度はカレーをすくい、
「はい、あーん」
とルチアの口元へ。
「あ、あの、辛いですよ!?」
と言いつつも、ルチアは再びぱくり。
「んん〜! スパイスが効いてて最高です!」
「ふふ、よく食べる子は可愛いね。ほら、口元にカレーがついているよ」
アルヴィンは親指でルチアの唇の端を優しく拭うと、昨日と同じように、その指先を自分の舌でペロリと舐めた。
「ア、アルヴィン様……! それ、昨日も言いましたけど、恥ずかしいです……っ!」
「恥ずかしがる必要なんてないさ。私の婚約者(になる予定の女の子)を、私がどう甘やかそうと自由だろう?」
「えっ、こんや……ええっ!?」
爆弾発言をケロッと言ってのけたアルヴィンは、驚愕するルチアをひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。完全にホールドされた状態で、さらに「あーん」の餌付けは続く。
一流の料理と、極上のスパダリによる底なしの甘やかし。
ルチアの胃袋も、ハートも、完全にアルヴィンのものとしてロックオンされていくのだった。




