公爵様の過保護な贈り物
国家賢者として認められてから数日後。
公爵邸でのいつもの穏やかな朝、朝食を終えたルチアの手を、アルヴィンが優しく引いた。
「ルチア、君に見せたいものがある。こちらへおいで」
「見せたいもの……ですか?」
導かれるままに向かったのは、公爵邸の地下へと続く重厚な扉の前だった。
普段は立ち入り禁止になっている一画だ。アルヴィンがアメジストの瞳を妖しく光らせ、扉の鍵孔にそっと魔力を注ぎ込むと、重々しい開錠音とともに扉が左右に開いた。
「――っ! これ……全部、私の……!?」
足を踏み入れたルチアは、思わず息を呑んだ。
そこに広がっていたのは、地下とは思えないほど明るく、洗練された【特注魔導科学研究所】だった。
最新型の魔導ドライバーや精密測定器が整然と並ぶ作業台。壁一面に備え付けられた巨大な羊皮紙用ブラックボード。そして部屋の四隅には、ルチアが設計した『大容量魔導コンプレッサー』が鎮座し、研究所全体をいつでも澄んだ適温の冷気で満たしている。
「国家賢者となった君には、これから様々な実験や開発が必要になるだろう? 王立研究所に部屋を用意するという話もあったが……そんな危険な場所・・・・・に君を通わせるわけにはいかないからね」
「アルヴィン様……! 私のために、こんな素晴らしい研究室を……っ!?」
目を輝かせるルチアの姿に、アルヴィンは満足そうに目を細めた。
だが、ルチアは部屋の中央にある制御盤へ近づいた瞬間、ふと違和感を覚えた。
「……あれ? アルヴィン様、このルーン文字の組み込み方……何かおかしくありませんか?」
ルチアが鼻先の眼鏡を押し上げ、制御盤の刻印を凝視する。
『機能1:最高峰の防音・遮音結界(外部からの音を遮断し、内部の悲鳴や甘い声も一切外に漏らさない)』
『機能2:緊急時自動施鎖(アルヴィンの魔力に反応し、扉および排気口を完全封鎖する)』
『機能3:抱擁連動型スポット冷気(二人が密着した際、周囲だけを最適な冷涼空間に調整する)』
「……アルヴィン様」
「なんだい、我が愛しき賢者?」
「これ、研究所という名の【地下甘々シェルター】ですよね!?」
「何を言っているんだい。集中して研究を行うには、静寂(防音)と安全性(施錠)、そして快適な温度環境が必要不可欠だろう?」
すました顔で完璧な論理(?)を述べる公爵様に、ルチアは頭を抱えた。
「だいたい、何ですか『内部の甘い声も漏らさない』って……っ! ここは作業をする場所です!」
「ふふ、作業に疲れた時、すぐに私から十分な『ルチア成分』を補給できるようにしておくのは、効率的な研究プロセスの一環さ」
アルヴィンは抗議するルチアの腰を後ろからすっぽりと抱き寄せる。
ひんやりとした彼の胸板に背中が密着した瞬間、部屋のエアコンがピッ、と心地よい清涼な風を二人の周囲だけに吹き下ろしてきた。
「きゅ~う❤」
作業台の上の『特注冷感クッション座布団』には、いつの間にか先回りしていたシロちゃんが、すっかり自分の定位置として収まっている。
「……もう、シロちゃんまで……っ」
「さあ、ルチア。君専用の最高の研究室だ。ここでどんな素晴らしい発明を生み出してくれるのか、一番近くで楽しみにさせてもらうよ」
「うぅ……ありがとうございます。でも、研究の邪魔をしたら、即座にエアコンの風量を『超極冷』にしてアルヴィン様を凍らせますからね!」
「それは楽しみだね。君の熱い愛で溶かしてもらう口実ができる」
どこまでも一枚上手の黒ハラ公爵様に、ルチアは赤くなりながらも嬉しさを隠せない。
国家賢者ルチアの新たな第一歩は、過保護で独占欲全開な公爵様に見守られ(甘やかされ)ながら、この最高に快適な研究室から始まるのだった。




