国家賢者ルチアの誕生
結局、アルヴィン様が折れる(というより「ルチアの晴れ姿を自慢したい」という欲に負ける)形で『絶対障壁』は解除され――。
国家の命運を救った英雄を称える、王宮での華やかな式典へが始まります。
王城の大広間は、眩いばかりの光と華やかな衣装を纏った貴族たちで埋め尽くされていた。
国の命運を握る「北方大結界炉」の熱暴走を、異世界の技術と独自の魔術理論で見事に沈静化させた少女。
その功績を称え、国王自らが彼女に最高峰の栄誉を授与する『国家賢者叙任式』が執り行われようとしていた。
大扉が開くと、広間の視線が一斉に集中する。
そこにいたのは、深いサファイアブルーの上質なドレスに身を包んだルチアだった。
プラチナブロンドの髪は美しく結い上げられ、胸元には彼女自身が魔改造した『超小型・魔力冷却ペンダント』がかすかに青く輝いている(※式典の緊張で熱中症にならないための自家製エアコンである)。
その隣には、仕立ての良い漆黒の礼装を纏ったアルヴィンが、エスコートするようにピッタリと寄り添っていた。
いつもの黒ハラな微笑みは影を潜め、アメジストの瞳には「私の美しい婚約者を刮目せよ、ただし気安く触れるな」という無言の威圧感がバチバチと漂っている。
「……アルヴィン様、みなさんの視線が凄くて緊張します……っ」
「堂々としていなさい、ルチア。今日の君は世界で一番美しく、そして一番偉大なエンジニアだ。……まあ、本当ならこのドレス姿も私一人だけに見せるべきなのだがね」
「そこは諦めてくださいっ」
二人が玉座へと続く赤絨毯を歩むと、参列していた老魔術師たちが一斉に深く頭を下げた。国境でルチアを鼻で笑っていたあの偏屈なベテランたちも、今やルチアを「師」と仰ぐ勢いで尊敬の眼差しを向けている。
玉座の前で深々と礼をとるルチアに、厳かな面持ちの国王が語りかけた。
「ルチア・フォスター。汝がもたらした未知なる技術と智術は、我が国の危機を救い、無数の民の命を守り抜いた。その類稀なる功績を称え、ここに汝を我が国史上最年少の『国家賢者』に任ずる」
重厚な意匠が施された『国家賢者の証』たる純銀のメダルが、国王の手によってルチアの胸元へと飾られた。
瞬間、拍手と歓声が大広間全体を揺らす。
「ありがとうございます、陛下。私はただのエンジニアですが……これからも前世の知識とこの世界の魔法を合わせ、みんなが安全で快適に過ごせる技術を作ってまいります!」
凛とした声で宣言するルチアの姿に、貴族たちから惜しみない賛辞が送られた。
――しかし、式典が終わり、国王主催の祝勝夜会へと移行した途端。
「ルチア賢者様! ぜひ我が領地の魔導炉の改修もご指導いただきたく――」
「いや、まずは我が魔導工房の特別顧問として――」
押しかけてくる貴族や魔導師たちを、バサリと遮ったのは漆黒のマントだった。
「私の賢者に用があるなら、まずは公爵家を通してもらおうか。あいにく彼女は、国家の仕事よりも『公爵邸の最優先事項(私との甘い時間)』で大忙しなのだよ」
アルヴィンは容赦なく冷気を撒き散らし、群がる人々を物理的かつ心理的に一蹴すると、ルチアを軽々と横抱き(お姫様抱っこ)にした。
「あ、アルヴィン様!? まだ夜会の最中です……っ!」
「賢者の初仕事は終わりだ。……さあ帰ろう、我が偉大な国家賢者様。君が授与されたそのメダルも、公爵邸の『冷たい寝室』でゆっくり見せてもらうとしよう」
「きゅ~う!(主人の胸ポケットから顔を出して賛同する)」
王宮の注目を根こそぎ奪い去り、公爵様は愛しい賢者様を抱えたまま、さっさと馬車へと消えていく。
前世では地味なエンジニアだった少女は、異世界で国を救う『国家賢者』となった。
けれど、どんなに立場が変わろうとも、彼女が一番能力を発揮する(そして愛される)場所は、あの世界一涼しくて甘い公爵様の腕の中なのだった。




