降伏?!
「絶対障壁の解除コードは……第4魔力パスの干渉を逆相で打ち消して……」
ルチアはアルヴィンの膝の上という「最悪(最高)の作業環境」で、膝の上に置いた小さな魔導端末に必死で数式を打ち込んでいた。
「ふむ……そこは『絶対零度』の冷却干渉が入っているから、その数式では相殺しきれないよ」
「口を出さないでくださいっ! あと、耳元で喋らないでください、集中できません……っ!」
耳元に吹きかかるアルヴィンの熱い吐息と、首筋を撫で回すほんのりとした指先。ルチアの心拍数は上がる一方だ。
そしてルチアの心拍数が上がるとどうなるか――。
ピッ。
『警告:対象の心拍数上昇を検出。「抱擁モード・極」を維持するため、室温をさらに0.5度下げ、周囲の結界密度を強化します』
「ちょっと!? エアコンまで私を邪魔するなんて聞いてないです!!」
「くく……いいぞ、我がエアコン。実に忠実で優秀な側近だ」
アルヴィンはルチアの腰をぐっと引き寄せ、抗議する彼女の唇を再び深く、強引に塞いだ。
端末がルチアの手から滑り落ち、ベッドのシーツの上に転がる。
「ん……む……っ、あ……」
舌を絡められ、甘く熱い呼吸を吸い上げられるたびに、ルチアの頭の中の数式がひとつ、またひとつと溶けて消えていく。
冷気で満たされた部屋の中で、重ね合わせた肌の体温だけが狂おしいほど熱く、呼吸すらもままならなくなっていく。
「……もう、脱出など諦めて、私に降伏しておくれ。ルチア」
口づけを緩めたアルヴィンが、アメジストの瞳をトロりと甘く痺れさせて囁く。
「……ずるい、です……こんなの、勝てるわけないじゃないですか……」
ルチアは力なくアルヴィンの胸元に額を預け、降伏の溜息をついた。
国家の大結界炉すら完璧に修理してみせた天才エンジニア・ルチアだったが、愛する公爵様の底なしの独占欲と、自らが作り上げた「甘々抱擁エアコン」のタッグには、どうしても勝てそうにないのだった。




