甘すぎる難関
「んむ……あ、アルヴィン様……っ」
深くて甘い口づけからようやく解放されたルチアは、息を弾ませながら赤くなった顔をアルヴィンの胸元に押し当てた。
はだかる『絶対障壁』の青白い光が部屋の壁を淡く照らし、外界の音を一切遮断している。
「……観念したかい、我が愛しき賢者様」
アルヴィンは愛おしくてたまらないといった様子でルチアの背中を優しく撫で、その髪に何度も唇を寄せた。
「観念もなにも……私、エンジニアとしてのプライドにかけて、自分で作った機械のセキュリティを自力で修復してみせますから!」
「ほう? 私の張った極上の密室結界を破るというのかい? それは……とても楽しみだね」
アルヴィンはフッと口角を上げると、挑戦的なルチアの瞳を愛おしそうに見つめた。そして、わざとらしく彼女の腰に回した手に力を込める。
「だが、集中しようとしても、私がこうして邪魔をするよ? 君がコードを打ち込もうとするたびに、耳元で愛を囁き、首筋に口づけを落とす。……そんな状態で、君のその優秀な頭脳が正常に働くといいけれど?」
「な、なんて卑怯な……っ!」
「卑怯で結構。君をこの手の中に繋ぎ止めておけるなら、私はどんな手段だって使うさ」
勝ち誇ったように微笑む黒ハラ公爵様に、ルチアはぐうの音も出ない。
壁のエアコンは、ルチアのパニックと興奮による体温上昇を察知して、さらになだめるような極上のしっとり冷気を吹き出している。完全にアルヴィンの味方(……というか、二人を甘い空間に閉じ込める共犯者)と化していた。
「きゅ~う❤」
足元では、完全に「冷感もふもふクッション」になりきったシロちゃんが、アルヴィンの足元に擦り寄って満足そうに尻尾を振っている。裏切り者(獣)がここにも一匹。
「うぅ……皆して私を閉じ込めて……」
「ふふ、閉じ込めているのではないさ。世界で一番安全で、世界で一番甘い場所に『保護』しているんだ」
アルヴィンはルチアの手を握り締め、その指先にそっと唇を触れさせた。
国家の危機を救った奇跡のエンジニア・ルチアの次なるミッションは――
まさかの「自分が作ったエアコンと、愛する公爵様の鉄壁の独占欲結界からの脱出」という、なんとも贅沢で甘すぎる難関なのだった。




